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従来のマス・ツーリズム中心の観光が自然地域において重大な環境破壊を引き起こす場合があったことは序章で述べた。その原因の一つが自然環境に対して観光が与えるインパクトが事前に十分理解されていなかったことにあったということは、現在では研究者たちの間では広く認識されている。さらに、経済的インパクトとは異なり環境的インパクトの測定と計量は困難であったことも状況の改善を阻んでいた。そのために環境への影響よりも経済効率を優先させた近視眼的で無秩序な観光地の開発が行われる傾向があった注30。しかし現在では、観光地とその周辺地域における環境的な変化の程度と性質は、一般に開発の規模と観光客の数、空間的および時間的な使用方法の集中状態、問題となる環境の性質、開発が行われる前後に採用された計画と管理の実行の性質などの多くの要因に関係するということが明らかにされている注31。したがって、観光による自然破壊を防止するには複雑に絡み合った要因を考慮しコントロールしていくことがその第一歩となる。

それ故、自然資源を破壊せず持続できるような形で観光を行うために重要になるのは次の二点である。まず第一に、観光地としての開発の着手以前に注意深い計画策定が行われること、そして第二に、その観光地全体に対して継続的で統合的な管理が行われることである。観光対象となる自然資源のある地域におけるそのような計画策定と管理なしにはエコツーリズムは成功しない。これらは、エコツーリズムの「基本哲学」とも言えよう。

エコツーリズムの目的地となるのは、どこにでもある自然環境ではなく希少性ゆえに貴重とされる場所である。エコツーリズムは、そのような地域に観光客を小規模ではあるが反復して継続的に送り込む。それは、エコツーリズムとは限られた少数の人々による「探検」のような特殊な行為ではなく、あくまでも自然志向の一般の人々を参加対象とした旅行商品として販売されるためである。したがって、自然環境に対する悪影響を防ぎながらその実現を可能にするには、観光客の受入に関してあらかじめ様々な準備が要求される。具体的には、適正収容力に基づいた量的・質的な利用制限の明確化、資源に基づいた活動プログラムの開発、プログラムの実践を支えるハード(施設)とソフト(提供する情報の整備、ガイド・インタープリター)の存在、資源の質に対する継続的な監視体制、規制とガイドラインの設定等である。それらの要素の実現には、前提としてその地域全体を把握した上での計画策定と管理がシステムとして埋め込まれていることが必要とされる。

エコツーリズムが自然に関連した名称を持つ他の観光形態と際だって異なるのはこの点である。最も基本的な目的として観光資源となる自然環境を持続可能とすることを掲げているために、計画策定と管理のシステムが存在することがその成立の条件となる。

 

 

 

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