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状から推察しても、エコツーリズムと呼ばれている観光形態の中に「レベル」があるという捉え方が適切であろう。

しかしこのように理解することによって、ここでエコツーリズムの定義としてどのようなものが最も適切であるのか、「幅」の中のどの範囲にありどの要素を含むべきでどの水準以上であるのか、ということを論じるのが意味のあることなのかという疑問も生じる。他の観光形態と区別するために厳格に線をひくことはエコツーリズムを固定的な概念として把握することを容易にするかもしれないが、実際に「エコツーリズム」と呼ばれている観光形態に「幅」がある以上、実態に即していないと思われるからである。 したがって、ここでは既存の定義の整理を行った結果として、「エコツーリズムの厳密な定義は、その用語が計画策定と開発のコントロールの道具のような法的な書類や行政上の書類のなかで使用される場合、あるいは資金を拠出する機関にガイドラインを与える場合以外には、おそらく不必要である注29」という主張に暫定的に与することにしたい。

ここで触れた厳格な定義の必要性については、?章において再度言及する。

 

2 目的と条件

さて、エコツーリズムを細かく定義する必然性を留保することができたとしても、エコツーリズムを他の観光形態と区別するためにその特徴として何か最低限の指標または性質を提示することは必要であろう。例えば、「全体的な自然環境あるいはその構成要素を観光の対象とする」という基準だけでは「自然観光(nature tourism)」や「冒険観光 (adventure tourism)」と呼ばれる観光形態との違いが示されない。そのためエコツーリズムがそれらと本質的に異なる性質を有することを明らかにしなければならない。

?章において見たように、エコツーリズムの考え方は観光と自然環境との関係に関する研究が持続可能な開発という概念の影響を受けて出現した。それ故、実際の観光形態としてのエコツーリズムのあり方も持続可能な開発の原則の上に存在している。したがって、エコツーリズムという観光形態の最も基本的な目的とは、観光対象とする自然資源を持続可能にするということである。エコツーリズムの定義として挙げられることの多い「自然環境の保全のための財源となること」も、その本質的な目的を達成するための方法の一つを示しているにすぎない。「地域における雇用を創出すること」「観光客への環境教育のプログラムが存在すること」等についても同様である。結局、それらの先には、観光対象となる自然資源を将来にわたって持続的に管理していくという究極の目的が存在する。

では、自然資源を持続可能にするためには、あるいはそのような目的を達成しエコツーリズムを成立させるためには、どのような条件が必要とされるのであろうか。

 

 

 

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