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年代から80年代半ばに支持された「矛盾」という一面的な捉え方とも、70年代半ばに示唆された「共生」という理想論的な捉え方とも異なる。前者は観光収入によって自然保全を行う保護地域の存在により否定され、後者はそれが多くの観光地では実現されていないという事実により一般化されないからである。

エコツーリズムという用語は、まさにこの1980年代後半に出現した注18。それは、観光分野における持続可能な開発という概念に対する認識の広まりに明らかに呼応している。すなわち、エコツーリズムは観光と自然環境との関係に関する研究の変遷の末、自然資源を持続可能とすることを現実的に達成するための手段として考え出された観光形態であると言えよう。「エコツーリズムの意味することを十分に理解するためには、現在の公共政策の議題となっている『持続可能な開発』という、この10年間に議論の中心になりはじめている比較的新しい概念を理解することが不可欠である注19」のである。

エコツーリズムが1980年代後半に現れたことの背景には、当時の社会的現象があったことは確かである。しかし、「観光行動のために支出される金銭が観光対象となる自然資源の保全のために使用される」というエコツーリズムの基本的な考え方が広く受け入れられるには、観光と自然環境に関する研究と持続可能な開発という概念との出会いが深く関わっている。したがって、エコツーリズムとは、観光産業に対しても持続可能な開発が求められたときにその現実的な実現の手段として出現した観光形態と解釈できよう。

 

2. 観光における持続可能な開発という概念

持続可能な開発という概念を最初に紹介したのは、1980年に発表されたThe World Conservation Strategyであった注20。これは、国際自然保護連合(International Union for Conservation of Nature;IUCN)、世界自然保護基金(World Wildlife Fund;WWF)、UNEPの3団体が共同で提示した地球規模の保全計画であり、50カ国以上の環境保全戦略の策定に利用されたものである。また、この概念が一般に知られるようになった契機は、1987年に発表されたOur Common Futureであった注21。これは、環境と開発に関する世界委員会(World Commission on Environment and Development;WCED)の報告書であり、結論において持続可能な開発の重要性が強調されている。さらに、同報告書の勧告を受けて1992年に開催された、環境と開発に関する国連会議(United Nations Conference on Environment and Development;UNCED)、いわゆる地球サミットでは、持続可能な開発の理念の下で環境と開発の両方を目指す方向と地球環境の保全に関する対策についての国際的な合意が示されている。

こうして持続可能な開発という概念は、

 

 

 

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