大枠としては世界的に受け入れられ支持されるようになった。ただ、現時点ではその概念を実践的な目標や政策や計画に転換しようとする際に、各国の置かれている現状が異なっているため「総論賛成、各論反対」という状況に直面することが多く、その明確な内容に関して議論の余地が残されているのも事実である注22。しかし当面は、ここからさらに明確な目標と方法論を展開していくための大きな理念であると捉えるのが賢明であろう注23。
では、持続可能な開発という概念は、観光分野にどのように適用されるのであろうか。
この概念の適用を推進することが観光産業の利害の中にあることは明白である注24。観光産業が地域住民を含む他の使用者とその資源を共有する義務を持つのは当然として、観光地としての資質も既存の観光資源の価値をどれだけ維持できるかに大きく左右されるからである。ここでは、持続可能な開発において観光産業が考慮しなければならない点を挙げた基本的なリストの一例として、Caring for the Earth-A strategy for sustainable living-注25を紹介する。
その第11章「ビジネス、産業および商業」では、観光産業に対して次の指摘がなされている。「観光産業は世界最大の民間産業であり、低所得国の経済開発に重要な意味をもっている。観光事業は、農業・林業・水関連産業・保護地区の管理当局・都市開発機関などによって使用され、管理される資源も含めた文化および自然の多様性に依存し、同時にそれに影響を及ぼす。観光事業が持続可能な発展をするためには、環境保全と開発を統合し、いろいろな分野や関連事業も統合されなければならない。」
さらに、「行動・11の6 天然資源の使用を基盤にしている産業はすべて、資源を経済的に使用するようにする」という項目では、「林業・農業あるいは漁業生産物を使用する産業、あるいは観光事業のように天然資源を消費することなく利用する産業は、その資源基盤の保全について特別の責任を負っている。」また、「(観光事業は他の産業と異なり、)非採取産業、つまり自然界から資源を採取しない産業であるが、それでも、観光事業そのもの、およびホテルや交通網などの関連施設は環境に大きな影響を及ぼす」との認識のもと、政府と保護団体、観光産業界が協力して進めるべきこととして、以下の主張を行なっている。
(1) 観光事業は、自然に及ぼす影響を抑制し資源基盤を保護するように計画され、規制されるようにする。開発計画はいずれも環境アセスメントを受け、企業は環境査察を受ける義務を負わなければならない。観光計画は他の土地利用、特に保護区内の土地利用と統合されたものにしなくてはならない。
(2) 観光事業が人間に及ぼす影響を抑制する。世界各地で観光が数々の文化に被害を与えており、これはおそらく、ある程度は避けられないだろう。しかし、人々の合意なしに文化を損傷するのは避けることはできる。観光事業によって影響を受ける人々は、開発の意志決定に参加し、提案事項の内容を変更したり、その生活様式と環境にとって有害とみなされる開発に反対したりすることができなくてはならない。地域社会は、決定権を持ち、観光事業に積極的に参加すべきであり、そうすることによって経済的利益を得ることもできるのである。