ムの位置づけを論じる。そして、観光地開発における今後の課題を示し、結語とする。
1章 エコツーリズムの出現
1. 観光と自然環境との関係に関する研究の変遷
エコツーリズムとは、1980年代後半に提唱されはじめた比較的新しい観光形態であり、従来のマス・ツーリズム中心の観光ではそれほど重視されていなかった自然環境の保全という点を強調していることが特徴として挙げられる。その出現の背景としてこれまで幅広く指摘されてきたのは、1980年代以降に高まった自然環境に対する関心と保全の重要性に対する認識、そして観光客の嗜好の多様化である注10。しかし、エコツーリズムの出現の背景はこれだけでは十分に語られていない。というのは、「エコツーリズム」という用語が誕生する数十年前から観光と自然環境との関係に関する研究が行われてきておりその存在を無視することはできないからである。そこで、ここではその研究の流れをマス・ツーリズムの黎明期からエコツーリズムの出現まで概観する。
1950年代以前には観光と環境との関係を扱った論文はほとんど発表されておらず、一般に観光は自然環境に少しのインパクトしか与えないという見方がされていた。しかしマス・ツーリズムの動きが拡大しはじめた1960年代に入ると、観光が国立公園の設置や伝統的価値の保存・継承などにインセンティブを与えるというプラス面を強調する見解と資源を浪費し環境を破壊するというマイナス面を強調する見解とに二分されるようになり、1970年代前半まではこの二つの見解が対立していた注11が、1976年にBudowskiが観光と自然環境の保全との統合に関する議論を提起し、両者に利益が生じるような「共生アプローチ(symbiotic approach)」を提唱した注12ことから、議論の幅が広げられた注13。
1980年代後期になると、観光と自然環境との関係に関する研究においては事例の蓄積が進み注14、またこの頃に一般に知られるようになった「持続可能な開発」という概念が大きな影響を与えた。持続可能な開発とは、「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく現在の世代のニーズを満たす開発」と定義される概念で、継続的な資源のストックの維持を必要とするものである注15。観光と自然環境に対しても自然保護と経済開発との調和を目指したこの概念を当てはめることで、経済原理を視野に入れた「協力」または「相互依存」という現実主義へと研究者の主張が徐々に変化していくこととなった注16。
それまでの研究を踏まえた上で持続可能な開発という概念の影響の下に1980年代後半に誕生した新たな見方をまとめれば、それは「自然環境に矛盾しない観光は、持続可能な開発を促進するための統合的なアプローチを通じて達成される注17」という現実的な考え方であろう。この認識は、1970