8. 今後の国際観光政策への提言
以上のように、日本の国際観光政策の展開過程を歴史的に追って明らかにしてきたが、最後に、本論で得られた知見から語りうる、これからの日本の国際観光政策に対しての、あるいは「ウエルカムプラン21」に対しての提言を若干述べて締めくくりとしたい。
▼国土計画としての国際観光政策の確立
明治以降国際観光政策は、国土上でフィジカルプランとして描かれ、国土計画と密接な関係の中で実施されてきた。しかし、戦後になると、徐々にこの意識は薄れ、始めに国土計画政策の方向性有りきで、それを観光政策的に裏付けていったという感は否めない。
特に本論で対象以降の昭和46年以降は、「国際観光モデル地区」の指定を除けば、国際観光のための国土上の政策展開はほとんど何も行われないといってもいいと思う。
地域の高速道や空港整備の計画において、観光に対する期待は強く、需要予測等の中では大きく取り上げられるが、これはその地域だけをみた場合の考えであり、観光振興における国土全体でのネットワークやバランス(どこの地域で重点的に観光産業をリーディング産業としていくか等)の中では論じられていないことがほとんどである。
これからは、国際観光に限らず観光から国土の新しい連携の方策を提案していくくらいの気構えでいたい。具体的には、例えば、次のような点に気を付ける必要がある。
▼ 県境、国境をまたいだルートの設定
「ウエルカムプラン21」を受けた法案の中では、都道府県による観光ルートの形成を促しているが、ひとつの都道府県単位のルート設定は、海外からの来訪を前提にした国際観光のルート設定では小さすぎる。もっと広域で考えていくのが観光計画論の定石である。次期全総の提唱する「地域連携軸」を成立させるためにも県境をまたいだルートを意識的に国が設定する意義を認識する必要がある。
また、日本国内にとどまらず、もっと広く、全アジア的視野でもルートを考えていくことも重要であろう。3期での日支・日満周遊ルー卜の設定、4期での共同宣伝等は、無論、大東亜共栄圏を目指した当時とはその目的は異なるがハードとしては参考になろう。
▼多様な利用交通機関の設定
過去の政策をみると、3期までは舟運と鉄道、4期以降6期までは鉄道と道路、7期になるとこれに航空路がプラスされる。どんな交通機関を利用するかは旅の楽しさを決定する上でも需要な要素である。新たな交通機関は考えにくいが、多様な選択肢を用意すべきである。例えば、舟運を使って河川流域にルー卜を設定するのもおもしろいであろう。戦前に盛んに導入されたケーブルカーのような環境に優しい新交通システムの導入等も積極的に提案していくべきである。
また、ルートの入国・出国地点も、1期は居留地、2期は国際港と臨機応変に変えられており、地方空港が次々と国際化する中で、多様なルートが設定できる可能性がある。