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テイが有効となる(Guseman,1981)。海外渡航が限られた人にのみ許されていた時代と比較すると、海外出張や海外赴任の経験者、留学生、リピーターが増大している。海外旅行が大衆化された今、豊かな情報量と過去の旅行経験から海外に対する不安が緩和されている。非日本企業のサービスを購入するリスクが減少し、非日本的なサービスを受け入れる旅行者が増加している。日本人旅行者が日本的なサービスに拘らなくなってきている。

第4の変化は、日系企業の現地化である。現在、旅行企業の海外拠点におけるアウトバウンド業務の主な顧客は海外進出日系企業である。だが、これらの企業では現地化が進められている。現地人の採用と現地人の経営参加が進むと、日本人が旅行手配を日本企業に発注したのと同様、現地人は現地企業に手配を依頼するようになる。また、現地化を促進するために日本との繋がりを弱くしようとする日系企業もある。海外進出企業の現地化という市場環境の変化を受け、日系企業のアウトバウンドの市場は縮小している。

 

2. 非日本人市場の吸収

第2の問題点は、自民族を中心とするために日本人・日系人・日系企業以外の顧客を扱うことができないという問題である。旅行中の購買行動、旅行形態といった旅行行動は、旅行者の文化、言語、国民性などによって異なる(Philpp, 1994;Pizam & Sussman,1995;Enoch,1996)。また、旅行者はローカル・スタンダードに基づいてサービスを評価する。そのため、旅行企業は旅行者の行動特性に合うサービスを提供する必要がある。日本の旅行企業は、日本人旅行者に対応するために日本的なサービスの提供を重視し、日本人中心のオペレーションを行ってきた。自民族への対応を重視するこのエスニックな経営行動では、日本人への対応のノウハウは発達するが、非日本人に対する情報が不足する。非日本人の行動特性やニーズを知ることができないし、それを提供するためのノウハウを習得することができない。現地の市場開拓に必要な情報を入手することが困難になる。つまり、単一の民族の対応に特化することから多民族への対応が困難になり、非日本人市場の開拓ができなくなるのである。

 

3. 多国籍企業としての優位性の発揮

複数の国に拠点を持ち、グローバルに経営活動を展開する多国籍企業には3つの優位性がある。第1は、特定の一国に限定されずにグローバルな視野を持てること(Vernon,1971:邦訳333)。第2は、様々な国の経営資源を使う能力と機会があること(Vernon,1971:邦訳334)。第3は、様々な国の環境的刺激に接する機会が恵まれていること(Bartlett & Goshal,1986)である。ところが、旅行企業は日本人をターゲットとし、日本人中心のオペレーションを行っているため、所在は海外にあっても視野は本国志向である。第2の強味となる経営資源についても、日本に関係する部分しか利用せず、非日本人と非日系企業に対応するための資源を活用できていない。

 

 

 

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