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様々な経営資源を使う機会があるにも拘わらず、その機会を十分に活用していない。そして、第3の強味に関しても、環境的刺激はあるものの、それは主にトラブルの発生原因となり、サービスの改善や革新、新たなサービスの創造というイノベーションの源泉には繋がっていない。自民族に関する海外でのビジネス・チャンスを獲得することはできたとしても、国際的な市場開拓には消極的な態度をみせることになる。このようにエスニックな経営行動には、多国籍企業としての優位性をおおよそ発揮することができないという問題点がある。

エスニックな経営行動の問題点を3つの視点、すなわち、日本人市場の変化、非日本人市場の吸収、多国籍企業としての優位性から捉えた。これらの問題点から考えられるのは、エスニックな経営行動が旅行企業自らの活動範囲を制約している可能性である。観光産業従事者は旅行者の民族的な行動特性に合わせる習性がある(Pizam & Sussman,1995)。だが、旅行企業や観光事業の関係者は旅行者の民族的な行動特性に留意しすぎる傾向がある。日本人が非日本的サービスを求めるように、非日本人にとって非日常的な日本的サービスも、それがよいものであれば評価され、受け入れられるはずである。日本の旅行企業は日本人市場だけでなく、非日本人市場にも積極的に取り組んでいく必要がある。

 

?. 今後の課題

 

本研究では、旅行企業の海外進出に関するケース・スタディから、日本の旅行企業が自民族に基づくエスニックな国際経営行動を特徴とすることを明らかにした。エスニックな経営行動を形成する理由は認められるが、国際化という意味では問題点がある。この問題点を克服することが旅行企業の国際化に向けての課題となる。日本人の海外旅行者数と訪日旅行者数に格差があることをはじめ、日本の国際観光はまだ発展段階にある。新しいものに触れることは旅行の重要な要素であるが、その一方で、日常的な生活習慣を継続することも旅行者にとって大切である。旅行企業が民族的特性を考慮するサービスを提供することは重要である。だが、旅行企業の国際化にとつて必要なのは、ターゲットを自民族に限定せず、様々な民族に、それぞれの民族的特性を考慮したサービスを提供する姿勢をもつことであろう。多国籍企業の優位性を活かし、ヒトや情報など各国の様々な経営資源を利用することによって、旅行企業は非日本人の市場開拓に取り組むことができるだろう。そうすることによって、旅行企業は国際観光を進展させることができるはずである。

本論文では、日本の製造企業と比較すると、旅行企業の海外進出では特に顧客との対応の中から日本人中心のオペレーションが重視されていることから、企業と市場の関係からエスニックな経営行動が形成される理由と問題点を検討した。だが、議論しなかった企業内、企業間の視点からも形成理由と問題点、さらにエスニックな経営行動の効果を考えることができるだろう。また、研究の対象を日本の

 

 

 

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