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3. ビジネス・システムの違い

エスニックな経営行動をとる第3の理由として、ビジネス・システムの違いがある。一般に、旅行企業の利用率はレジャー旅行よりもビジネス旅行において高くなるが、欧米で普及しているBTMにおける遅れが日本の旅行企業をエスニックな経営行動にしている。このビジネス.システムでは、顧客企業は様々な条件を提示して複数の旅行企業に入札させ、競合の中から最も条件に合う旅行企業と契約を結ぶ。旅行企業は一旦BTM契約を受注すれば、顧客企業の旅行業務を一定期間――多くの場合、数年単位で―――一括して引き受けることになる。しかし、日本の旅行企業は社員が1社毎にセールスに廻り、1つ1つの出張業務をその都度受注する。いわば偶然性やセールスマンの腕が成功の鍵を握る営業方法である。この日本的な営業方法で非日本企業の市場開拓を図ろうとしても、多くの企業は既にBTM契約を結んでいるため、日本の旅行企業は業務を受注できない状況にある。もちろん、日系旅行企業の中にもBTM契約の受注に成功した例はある。例えば、1994年の日産USAとの契約である。アメリカンエキスプレス、トマスクック、カールソン、JTBIなどが競合したこの事例では、JTBIがマリッツと組み、3年契約を受注した。太平洋線をJTBI、それ以外をマリッツが担当した。だが、この事例でも日系旅行企業が1社で担当せず、分業が見られるように、日本の旅行企業はBTMの競争で苦戦を強いられている。それは、日本の旅行企業にはBTMのシステムの導入と開発が遅れているからである。BTMを行うにはデータ管理と最新情報を提供するための旅行企業一顧客企業間を繋ぐコンピュータ.システムが必要である。だが、設備投資、システム開発はもちろん、BTMの概念の導入が遅れた。日本の旅行企業は現在、日本的な営業方法では考えられなかった概念を導入し、非日本企業との格差をなくそうとキャッチアップを図っている最中なのである。非日本企業の市場に参入できないことから日本人のインバウンド業務を中心とするエスニックな経営行動をとっているのである。

 

製造企業と比較すると、旅行企業は顧客との対応の中から日本人中心のオペレーションを重視するところに特徴がある。そこで、企業―市場の関係からエスニックな経営行動が形成される理由を検討した。日本人の海外旅行市場の急速な拡大により日本の旅行企業が対応に追われ、非日本人市場に目を向けることができなかった。また、サービスの世界標準が未確立なことからローカル・スタンダードで評価が為される。日本の旅行企業は日本人旅行者の要望に応じるために日本的なサービスの提供に重点を置き、それを可能にする体制として日本人中心のオペレーションを行う。だが、日本の旅行企業は非日本人市場には受け入れられない。さらに、ビジネス・システムが世界各国で異なっている。BTMではハードとソフト両面の導入において非日本企業に遅れをとっている。日本人市場への対

 

 

 

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