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旅行者数は5年後の1990年には10,997,000人と約2.2倍になったのである。この時期、日本企業の海外進出が増え、業務渡航も増加した。旅行企業は海外進出日系企業の旅行業務、駐在員の引越業務、その家族のレジャー旅行をも担当した。日本の旅行企業は日本人旅行者と日系企業の対応に追われ、非日本人市場に目を向ける余裕がなくなったのである。

 

2. ローカル・スタンダードに基づくサービスの評価

海外を訪れる日本人は増加したが、多くの旅行者は海外においても日本的なサービスを要求した。その要望に旅行企業は応えようとしたのである。

海外旅行において、旅行者は異国情緒あふれる、いかにも現地を思わせるような現地的なサービスを要求する。歴史的遺跡を訪れ、現地の家庭料理を味わい、舞踊などを体験することによって現地に触れようとする。しかし、その一方で日本人旅行者は日常的な生活習慣を継続しようとする。日本語ガイド、日本食、バスタブ付きの部屋に代表される「心地よさ」の感じられる日本的なサービスを要求する。それは、現地的なサービスに興味がある反面、それが日本人の価値観や生活様式に合わず、受け入れられない場合があるからである。これらの要求に対し、日本の旅行企業は顧客満足を追求することから日本的なサービスに重点を置いてきた。フロントラインに日本人や日系人を起用することで日本人旅行者に安心感を与えることができる。以心伝心で旅行者のニーズがわかる。日本人向けの旅行素材を選択・造成することで旅行者の満足水準を満たすことができれば、それは旅行企業の信頼性に繋がる。顧客と同じ文化的基盤を持つ優位性を活かし、日本的な感覚で組織を構成するのである。そして、この日本人中心のオペレーションを可能にしているのは海外における日本人労働市場の存在である。日本人・日系人の居住人口が少なく、従業員として確保が困難な地域では非日本人の従業員が多く、日本的経営の色彩が弱くなる。

ところが、日本の旅行企業が重視する日本的なサービスは、現在のところ、非日本人には受け入れられていない。日本人同様、サービスがローカル・スタンダードにより評価されるからである。日本の旅行企業は、日本人旅行者が高く評価するのは個人的対応と思いやりや配慮のあるサービスであると分析し、情緒に訴えるようなサービスの提供に重点を置く。だが、日本人が高く評価するサービスが非日本人にも高く評価されるとは限らない。例えば、欧米人は旅行サービスを評価する基準として価格を最重視する。そのため、欧米の旅行企業は低価格のスケルトンタイプのパッケージツアーを用意する。商品自体の利益率は低いが、幅広い販売網を利用した大量販売により利益を上げる。しかし、日本の旅行企業は仕入れ時の交渉力が弱く、価格競争では現地企業に敗れる。得意とするフル・サービスの旅行が評価されないことから非日本人市場の開拓に苦戦しているのである。

 

 

 

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