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面がある。日本人や日系人を対象とする場合、インバウンドの部門と同様の特色がみられる。ところが、非日本人を対象とする場合にはフロントラインは日本人である必要はない。インバウンド同様、財務や会計は現地人が担当するが、フロントライン、旅行素材の選択、仕入れでも現地人が活躍する。だが、旅行素材の造成では統合を得意とする日本人が活躍する。この組織では相対的に非日本人が多いことから日常的に英語が使用されるなど、現地的な経営スタイルが強く現れる。

このようにニューヨーク本社では、業務別に組織の特性が異なる。顧客に合わせた人事を、特にフロントラインにおいて実施している。顧客が日本人であれば日本人、逆に非日本人であれば非日本人を配置する。組織の構成員により経営のスタイルも変化する。だが、この部門間の違いは従業員を同一基準で評価できないという問題を生んだ。インバウンドの業績の大部分は既に旅行者が出発する日本で決定されている。だが、アウトバウンドは現地で競争が存在し、従業員の活動が明確に業績となって現れる。従来、年功序列的に賃金や昇進を決定してきたが、アウトバウンド部門では実績に基づく評価システムが必要となった。そこで、JTBIは1997年4月よりアウトバウンド部門を別会社化した。その結果、インバウンドを担当するJTBIでは日本人・日系人を中心とする日本的なスタイル、アウトバウンドを担当するJTB USAでは非日本人を中心とする現地的なスタイルの組織が生まれている。JTBIに日本的な部分が残され、強化されているのである。

 

?. 製造企業との比較分析にみる旅行企業の海外進出の特徴

海外進出に関する研究は多国籍企業の研究として数多く為されてきたが、これらの多くは製造企業を対象としている。非製造業である旅行業についても同じことがいえるのだろうか。製造企業との比較分析を通じて、旅行企業の国際経営行動の特徴を明らかにする。

 

1. 旅行企業の海外進出の特徴

日本の旅行企業の海外進出は、2つのタイプに分類できる。1つは、一般旅行者を対象とし、旅客サービスの充実を目的とする進出。増大する現地のツアーオペレーターに対する苦情や、旅行者が要求する日本的なサービスに対応するためである。もう1つは、法人を対象とし、海外進出日系企業の旅行業務を担当することを目的とする進出である。グループ企業や国内で取引関係のあった日本企業の海外進出に伴い発生するビジネス・チャンスを求めた進出である。両者ともに、日本人観光客や日系企業の多い地域を中心に海外拠点を設立する。そして、現地での営業権を獲得するために現地法人を設立する。だが、現地の市場開拓には積極的ではなく、取り組んでも成功していない。そのため、業容は日本からのインバウンド業務が中心となっている。

組織の特徴は担当する業務により異なっている。インバウンド業務を行う組織では、フロントラインに顧客と同じ民族のスタッフが

 

 

 

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