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する支払手数料を削減できるからである。

そして、現地での営業権を獲得するために現地法人化する。現地でのステータス、信用、交渉力を獲得しながら拡大する。現地社会の中で現地の企業として、現地企業やサプライヤー*2と対等な関係で事業展開を図ろうとしたのである。

このような経緯で設立されたKIEヨーロッパの業務は、日本からのインバウンド業務*3を中心とする。アウトバウンド業務*4は日本人、非日本人のいずれの市場にも取り組んでいない。経営のスタイルは、日本的経営と現地的経営の双方のスタイルが混合している。現地的経営は賃金決定や文書主義など、主に現地の法的規制、商習慣に関与する部分で実施される。日本的経営は時間厳守など、組織風土、企業文化に現れる。従業員の比率は、アムステルダム本社では日本人と非日本人が1:5で非日本人が多い。だが、日本人旅行者に対応する業務が中心となっていることから旅行者と同じ日本人が従業員に適するものと考えられている。日本人の人材確保が難しいのは、ヨーロッパにおける日本人の労働市場が小さいからである。また、日本人の賃金は高く、現地雇用制度による制約もある。そこで、現地人と日本人のどちらを採用するかは、人材とポジショニングにより決定している。例えば、ガイドや添乗員、カウンターといった顧客と対面するフロントラインには日本人や日系人、少なくとも日本語能力をもつ人材を採用する。また、経営幹部は親会社からの出向社員が務め、日本人が重要な意思決定を行う。だが、会計など顧客と直に接しはないが、フロントラインでのサービス・デリバリーが効果的かつ効率的に行われるように支援するバックオフィスには非日本人を登用する。ホテルのリザベーション担当者にも非日本人を配属する。それは、ホテル側の交渉に応じる担当者が現地人だからである。ホテル・ニッコー・ド・パリ(Hotel Nikko de Paris)とKIEヨーロッパの日系企業間でも交渉はフランス語で進める。アムステルダム本社の従業員でフランス語に堪能な人物が対応するのである。だが、非日本人の従業員が仕入れた旅行素材を造成するのは日本人である。

このように一般旅行者を対象とする旅行企業の海外進出には、次のような特徴がある。まず、海外進出の目的は旅客サービスの充実である。旅行者が海外においても国内同様のサービスを要求し、現地のツアーオペレーターが設定、提供するサービスに満足しないという問題に対処するためである。海外拠点は日本人観光客の多い地域を中心に設立される。これは日本人旅行者の海外進出に対応した動きである。また、現地経営のスタイルは日本的と現地的の両面が見られるが、日本からのインバウンド業務を中心とすることから日本的経営に重点を置き、現地で通用しない部分を現地的な様式に修正している。

 

ケース・スタディ2:東急観光

-Vita Travel(Canada)Ltd.-

東急観光は、環太平洋と欧州を中心に16の海外拠点(現地法人7、支店10、駐在員事務

 

 

 

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