●滞在スケジュール
10月20日
20:30 エア・ソーラ成田到着
23:00 事務局との打ち合わせ・スケジュール確認
10月21日
11:00 「ムンク生命の踊り」のリハーサル見学・楽屋訪問
18:30 劇団解体社「零(ZERO)カテゴリー」観劇
10月22日
10:00 IVW ヴィデオプレゼンテーション 日本の演劇状況及び日本のダンス状況のレクチャー
14:00 エア・ソーラ レクチャー
18:00 「ムンク生命の踊り」観劇
10月23日
12:30 渡辺弘氏(東急文化村)面会
16:00 国際交流基金訪問
19:30 会食
10月24日
12:00 IVW フェアウェルパーティー
14:00 トライアングル・アーツ・プログラムディスカッション
10月25日
09:30 成田発
レジスタンスだったベトナム人の父親と、フランス人の母親のあいだに生まれ、ベトナムで少女時代を過ごしたこと。学校教育というものは、サイゴンで5カ月ほどしか受けなかったが、両親や本、そして彼女が出会ってきた人々や経験、環境から学ぶべきものを吸収してきたということ。
「私は常に自分がどこにいるのかを考えていた。私を取り巻く全てのものは私自身ではないということを考えていた」
彼女の表現は、彼女を取り巻く、両親や家族、過ごした環境など非常にパーソナルなものから、引いては国の状況、歴史、伝統、思想といった観念的なことまで、彼女の人生に関わらざるをえなかった全てのものが、彼女の存在を通して一つの作品という形になっているものだと思った。
レクチャー終了後、エアが生活雑貨を買いたいと言うので、無印良品に連れていく。予想通り喜んで店内物色の後、こまごまとした買い物を済ませた末に目に止まったのがエア ベッド。しっかりしたいくつものエア・パックを空気で膨らましてベッドとして使用するそのアイデアと寝心地にいたく心魅かれたようだ。
「これだったら、持って帰れないことないわ」とつぶやくエアに、
「エア ソーラがエア・ベッドを持って空を飛んで帰るなんてすごいシャレだよ。」というと、
「日本に行って何してきたのと聞かれたときにベッドを買ってきたわと答えたらみんなに受けるよね」と切り返すからおかしくてたまらない。
その後、『ムンク生命の踊り』の舞台を見に行く。その後はメンバーと一緒に行動するということなので、そこから別行動となった。
夜、電話がかかってきた。何か問題でも起こったか、でなければ帰り道がわからなくなったかと心配になって聞くと、
「今日の舞台があまりにもすばらしかったので、それを伝えたくて電話した」とエアは、上機嫌だ。
「実を言うと、昨日のリハーサルを見て心配だったの。泯さんのやろうとしていることの意味が昨日のリハーサルからはわからなかった。外国人のダンサーに舞踏の舞台で、彼等にとって異質で借り物のような、舞踏の動きをさせることで、本当に泯さんが伝えたいことが観客に伝わる作品になるのかと。見た観客は、外国の人が頑張って舞踏らしきものをやっているという評価しかくださないのではないかと。しかし、それは、私の杞憂にしかすぎなかったわ。彼等の舞台は、異文化をバックグラウンドに持つダンサーによる彼等自身の表現になっていた。それを今日確認できてとても嬉しかった」
10月23日(木)
9時30分にホテルのロビーで待ち合わせ。コンビニのおにぎりの朝食を済ませて(日本の食べ物で気に入っているものの一つがこのコンビニのおにぎりなのだ。好物はおかかとツナと焼鳥)渋谷へ地下鉄で移動。早めにホテルを出て、渋谷をぶらぶらしながら、東急文化村へ向かう道すがら、彼女の目を引いたのが生地屋。まだ十分に時間があるのを確認して、店に飛び込む。ベトナムの民族衣装であるアオザイを作るのに良い生地を探したいのだそうだ。入念に見て回り目に止まるものがあると品質と価格チェックも怠りなく、吟味する。
「アオザイは、ベトナムの民族衣装だけれど、私が10代の頃、実はベトナム国内でアオザイを着ている人はそうたくさんいなかったの。その中で、私はアオザイを着て走り回っていたので、すごく目立っていたわ。今では、皆、いろんな素材で色とりどりのアオザイをそれぞれ工夫しながら楽しんで着ているけど」
絹の生地製品を見て「こういうシルク生地の多くをベトナムや近隣諸国の人々が安い賃金で作っている。そういうものが、日本に来るとこういう値段になって売られているのね」「私が作るのではなく、アオザイを縫ってくれる専門の技術を持った人がいるのよ。とても細かい作業で時間もかかるの。でも、一着の縫い代は、日本円で2千円もしないの」と言いながらシルクではない、四着分の生地を購入。
「こうやって、私が日本で稼いだお金も結局そこで使ってしまうのだから、この国に還元しているようなものね。でも、このタイプの生地はベトナムには売っていないから。」
待ち合わせ場所の東急文化村入口で渡辺弘氏と会う。渡辺氏の案内で劇場を見学させてもらった。渡辺氏もエアの評判はいろいろなところで耳にしているらしく、彼女にとても興味を持っている。その後、楽器屋でシンセサイザーを見てまわる。物理的にも金額的にも大きな買い物なので、慎重にならざるを得ない。電圧のこと、ベトナムの湿度のこと、技術的な汎用性、移動で使用するハードカバーのこと、単に音楽家から指示された商品を買って帰ればOKというものではない。しかも重さは20キロを超える。エアの体のほうが小さく見える。一度、ベトナムのスタッフとFAXのやり取りをしてから決めたほうがよい、ということになり盛入保留。無印良品でエア・ベッドを購入。箱梱包のままだとかさばるので箱から出し、大きいパックに一個にまとめるために店で一騒動。店員が一人、また一人とエアの周りに集まってくる。
「ほら、みんなやる前に無理だ無理だと言うけれど、私が実際にやってみるとうまくいくものよ。」と無邪気に笑う。集まってきた店員がみんなで感心している。そう、彼女は、細い体に似合わないバイタリティと集中力で、自分の周囲にある全てのことに取り組む。彼女のことばがそれを表わしている。しゃべり方や音の響きの耳あたりはとても柔らかく、チャーミングなのだが、そのことばの内容、論旨はゆるさなく強く明快なのだ。外見は涼しげに上品に(女らしく?)でも、内にあるものは無く芯が太いし、やることも大胆だ。その大きい荷物をホテルに置いて、国際交流基金に向かう。公演課の島田靖也氏、山下陽子氏と面会。島田氏に作品のビデオを見せる。夜、後藤と待ち合わせて会食。
10月24日(金)
9:00にホテルのロビーで待ち合わせ。まず、渋谷に出て楽器店に向かう。店員にいろいろ説明を受け、悩みに悩んだ末、ベトナムへ電話して、結局、購入を断念する。デパートでお土産の物色。たまたま見つけたきれいな紫色のブラウスを、自分のためにやはり悩んだ末にカードで購入。
「あなたは私に同行していると、私のことをしょっちゅう買い物ばかりしているんじゃないかと思うかもね。