このフォーラムでは、舞踏譜の中からいくつかのイメージをダンサーを使って実演して頂いた。例えば、フランシス・ベーコンのグロテスクな顔の絵がある。まずこの絵の特徴を分析する。この顔の特徴はなにか。グロテスクに見えるのはなぜか。このような質問を和栗さんがダンサーに向かって投げかけ、ダンサーは「顔の筋肉がいろんな方向に引っ張られているから、グロテスクに見える」等、自分で考えて答えるのである。次にその分析をもとに、そのグロテスクさを実際の人間の顔で再現してみる。その際に再現すべきは表情そのものなのではなく、絵が表そうとしているグロテスクさなのである。
作品の成り立ちを知ること
このほか、『幽霊』、『花畑の中を歩く』といった素材の実演があったが、その一つ一つで動きと周りの空間の関係、動きに内在する速度、音楽と動きの関係など、ダンスを創る上で必要な問題がすべて言及されていた。これこそダンスの学校である。正直なところ、その緻密さと網羅する問題の範囲の広さには驚かされた。この経験は、どのような点を作品の評価の基準にしたらよいかという視点を与えてくれたが、制作者としてダンス作品を見る上で非常に役に立っている。恐らく参加されたほかの制作者の方々も同意見だろう。それに対して、残念だったのはアーティストの参加が少なかったことである。舞踏ということで「自分とは別もの」=「聞く必要がないもの」という意識が働いたのだろうか。事務局の力不足を棚に上げるようだが、もう少し同時代のアーティストの活動に好奇心旺盛であってもいいのではないかと思う。
どのようにしたら好奇心を持ってもらえるか、次に誰が手の内を見せてくれるのか、このあたりのことが今後の課題になって行くだろう。
(記:後藤美紀子)