参加者からは「ローザスの創作法や動きの解析方法、それ以外のモダンダンスのメソッドを知識として少しは知っている。でも、日本ではそれを徹底して検証したり、新しい技術やボキャブラリーを開発しようという姿勢がダンサーにもコリオグラファーにもあまりないのではないか」という意見が聞かれた。新しい表現を生み出す基盤は、さまざまなテクニックの可能性や過去の蓄積を注意深く検証し、それを批判的に発展させていくプロセスによって作られる。地味ではあるが重要な一面に参加者は気付いたようである。
「教室」からの脱出は、若いアーティストに創造行為における自由を与えてくれはしたが、創作の環境までは保証しない。観客も未熟な作品を見続けてくれるほど、やさしいわけではない。創作方法の探究や教育システム、ひいてはアウトリーチまで、彼等自身の意欲と創造性がいま問われている。
目玉氏が国から発給された労働許可証の職業欄には、「ダンサー」ではなく、「コレオグラフィック・アーティスト」と記載されているという。創造性に富んだダンサーは、アーティストと呼ばれる資格がある。少なくともベルギーの社会では、そう認められているのである。
(記:吉井省也)
●日玉浩史 Koshi Hidama
1968年生まれ。 日本大学芸術学部卒。東京バレエ団を経て独自の活動を試みた後、ロンドンのラバン・センター留学。その後、ベルギーヘ渡たりミッシェル=アンヌ・ドゥ・メイのカンパニーへ参加。94年からローザスに参加。主要メンバーとして多くの代表作に出演する。最近、自身の制作活動も精力的に展開している。