このようにして、私達は低料金政策を実施しています。もう一つ付け加えたいのが、さきほどから、助成を受けているヨーロッパの劇場の話ばかりしてきましたが、ヨーロッパにはもちろん民間の劇場もあります。しかし、このような民営の劇場は、フランスでもドイツでも、実にひどい状況にあります。
国家から間接的に、何がしかの援助を受けている場合もありますが、「ブリウェ(民間の、私立の)」というフランス語のもう一つの意味(何かを持たない、奪われた)の通り、芸術的な質も悪く、内容的にも形式的にも劣る作品がかかる劇場になっているような気がします。民間の劇場が考えているのは、収益性を高めることだけで、そのためにスターばかりを使ったり、安く装置を作ったりして、演劇的な哲学に全く背いた活動をしています。収益のために芸術性が犠牲になっているのです。民間の劇場の3分の2が、現在ひどい赤字に苦しんでおり、3分の1だけがなんと収支の辻棲を合わせている状況です。このようにはっきりと公立の劇場との違いが見られます。公立の劇場の方は、別のところでリスクを負うことができます。
別の芸術的な質を探し、違った種類の作品を考えています。また、別のところに予算を割いて、観客の受け入れ方などに対し、丁寧な活動ができると思います。もちろん、可能性はあるのに、そうしたことに予算を割いていない公立の劇場もありますが。先程、チケット収入が我々の劇場の運営予算に占める割合が10%と申し上げましたが、それは謙虚すぎる見積もりでした。実は21%だったのです。10%というのはヨーロッパの公立の劇場の場合の平均です。
このように、われわれの劇場ではチケット収入が全予算に占める割合が大きくなっていますけれども、劇場が大きくなればなるほど、アドミニストレーションや組織が重くなってしまって、チケット収入の占める割合は小さくなるという傾向が見られます。通訳してもらっている間に計算をしたのですが、私達のヴィディ劇場の入場料は、一番高いもので、日本円にして1500円相当です。ヨーロッパでは全般的に劇場の入場料が高すぎるといわれています。演劇の入場料はオペラの入場料ほど高くはありませんが、一般の観客にとっては高いという意見が大半です。それから、公演が始まる時間が遅すぎる、ということも観客から言われています。日本に来て驚きましたが、この劇場でも始まる時間は19時です。私達も、ヨーロッパの他の劇場よりも早く、19時に公演を始めています。
ウィークデイにはマチネはなく、マチネは日曜のみです。そして、ヨーロッパの他の劇場と同様、助成金を受けていますから、さまざまな割引制度を実施しています。団体割引、学生割引、高齢者割引、それに失業者割引まであります。このようなことはとても重要だと思います。私達の劇場はヨーロッパの劇場の中でも、とりわけ料金の安い劇場です。
公共サービスのための劇場なので、公立の劇場で助成金を受けている以上、低料金政策を維持すべきだと考えています。随分いろいろな情報をご提供したような気がしますけれども、この情報が役に立つことを望んでいます。でも、繰り返して申し上げますが、いちばん重要なのは、周りのことはともかく、作る料理が美味しくなければ始まらない、ということなのです。