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良くないもの、質が低いいものを除いた、全てが大切です。

くだらない仕事は存在しません。

 

ゴンザレス●私が演劇学校にも行ったという声がありました。確かにコンセルヴァトワールに行って、俳優としての勉強をした。自分は仕事の中で、決定的な出会いがあって、演劇の仕事の中ではこうした出会いが一番重要な要素になるのではないかと思います。そこで一人の人に会いました。
その人は、ジャン・ピラールの劇場のアドミニストレーターだったジャン・ルーヴェです。そこから私の物語が始まったわけです。そこから私はアドミニストレーションの仕事の方に移っていって、それが本当に情熱をかき立てられる仕事であると思いました。ジャン・ビラールとジャン・ルーヴェの話をしましょう。これは本当にあったエピソードで、ルーヴェが私に話してくれたものです。ジャン・ビラールが、ある日新しい劇場に行きました。それが後に、国立シャイヨー劇場となる劇場ですが、巨大な劇場で、大ホールの客席数は1700から1800席です。ジャン・ビラールは客席をずっと歩いて舞台の方へ向かっていきました。
後についていったのが、ジャン・ルーヴェの方です。そして舞台まで着いた時に、ジャン・ビラールは振り返って、客席を見渡しました。そしてルーヴェに向かって、客席を指さしながら「これ全部が君のもので、」そして舞台の方を向いて「こちらは私のものだ」と言いました。すべてがこの言葉の中に含まれていると思います。この話からも分かるように、私は、芸術的な分野へのいかなる介入も避けています。意見を求められれば答えますが、クリエーションを決めるのはクリエーターであるべきです。
さっきも言ったように、クリエーターだけが船頭であるべきなのです。それから二番目の質問は、本当に大きなご質問だと思います。私はこの仕事においては全てが大切で、情熱をかき立てるものだと思っています。良くないもの、質が低いものを除いた、全てが大切です。くだらない仕事は存在しません。私はユートピアの経営者ですが、ある哲学を持っています、一つ一つの細部に関心を持って心を配らなければならないし同様に、一人一人の人に対して心を配らなければならない。それを基本にして、全てを開いた形で私は物事に向かっています。

Q3●昭和音楽芸術学院の企画制作コースで学んでいる学生です。先程、ゴンザレスさんが、制作スタッフはあまりいらないと言われたんで、胸が痛んだんですけれども、有能な制作スタッフになる条件を教えていただきたいのと、あと、スイスやフランスではそういうスタッフを育成する制度はどうなっているのかを教えていただきたいと思います。

ゴンザレス●傷つけたとしたら、大変申し訳ありません。でもそんなつもりで言ったのではありません。でも、その傷を和らげるようなことを考えましょう。聞き違いか、あるいは、理解の仕方が悪かったのかもしれません。言葉にはいつも裏切られるものです。少ない人数でアドミニストレーションを行わなけれはいけないと言ったのは、実際の活動の方に予算を割くべきだという文脈上、申し上げたのてす。
アドミニストレーションの負担かあまりにも大きくなったために、実際の作品制作の方に予算か割けないという場合を、私はあまりにも多く見てきました。

人も十分いて、場所もあって、設備も整っているのに、実際の創作活動にかける予算がなくなっている場合があるということです。そこで、なるべく柔軟で、重くならないような条件を整えてこそ、少人数のスタッフでこそ、我々の存在理由である創作の方を発展させることができる、と申し上げた訳なのです。しかしそうしたやり方でも、常勤でなくとも契約を繰り返し、一連の長い期間にわたって外部協力者として一緒に仕事をしてくれる人が出てきます。
ですから、アドミニストレーターはいらないと言ったわけではなく、アドミニストレーションのポストももちろん開かれています。それから、養成については、びっくりなさるかもしれませんが、私は学校というものを信頼していません。私の場合はジャン・ルーヴェとの奇跡的な出会いがありました。私自身の個人的な奇跡の中で、私が仕事を学んだのは、現場においてヽオン・ザ・ジョブ・トレーニングにおいてです。ですから私はオン・ザ・ジョブ・トレーニングしか信じていません。
確かに学校は特殊な技術に関しては必要でしょう。芸術的な学校の中でも、技術的な面で成果をあげている学校があります。しかし、劇場の経営はあまりにも特殊ですから、学校よりも、精神や実践の方が重要になってくると思うのです。アドミニストレーションを実践している人とコンタクトを持つことが、学校で学んだこと以上に重要になってくるでしょう。アドミニストレーターの養成学校はフランスには少なくともありません。ドイツにはたぶんあるでしょうけれども、ドイツの場合は劇場が、ほとんど巨大な民間企業に近い大予算を管理する企業であって、経営の仕方も全く違います。
一方私達の劇場は小さい、職人が集まったクラフトマン・センターのような働き方をしています。たとえ巨大な予算を取り扱う時であっても、職人気質を忘れずに、手工業的な哲学と、手工業の実践を保っていくべきだと思います。たとえ扱う予算が巨大になってゼロの数が増えても、全て原則は同じだと思います。小さい組織においてであっても、まず実践して、毎日作品に触れることが、いちばんいい学習の方法なのではないでしょうか。付け加えると、私の考えでは、能力は確かに必要ですが、それ以上に心理学が重要になるということです。それは学校では学べないことです。質問してくださった方に希望を持ってもらいたいので申し上げますけれども、劇場の経営は、実際は本当に簡単なものです。家計簿をつけるのと同じです。
欄が二つあって、収入、支出と書いてあるだけです。もちろん、コンピューターを導入したり、経理分析をしたりもするわけですが、そうしたことはそれをよく知っている経理の専門家がいますので、そちらに頼めばいいのです。劇場の経営はとても複雑で難しいものだと思われたがっている人達がいます。その人達が自分が持っている特権を守りたいと思っているからです。実際には劇場の経営は実に簡単なもので、皆さんの前に未来は開かれていると思います。

松井●まだ聞きたいことがたくさんあると思いますが、時間が来てしまいました。先程ゴンザレスさんが、ファックスの話をしていましたけれど、私の方に渡してくれればファックスするか番号をお教えするかいたします。どうしても聞きたいことがあれば、是非私のところまで来ていただきたいと思います。それでは今日はこれで終わりたいと思います。ゴンザレスさん、本当にどうもありがとうございました。

 

 

 

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