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逆に日本は、お金という意味では非常に明るい未来があるようですが、劇場文化として果して明るい未来があるのかというと、疑問を持たざるを得ないような現状を感じています。

ゴンザレス●ご説明ありがとうございました。私には日本の状況はよくわかっています。ですから先程、私達が抱えている問題が、皆さんにとって超現実的に映るのではないかと申し上げたわけです。忘れてはならないのは、ヨーロッパの中でも、フランスとドイツという二つの国だけが公的な助成を受けた劇場の活動という点で、抜きん出ているということです。
この2国においては演劇的、あるいは政治の現実の中にこうした助成という伝統がはっきりと書き込まれているわけで、その2国を除くと、少なくともヨーロッパでは4分の3の国々が日本と同じような状況です。気をつけなければならないのが、各国が外国に向かって、自国のショーウインドーのように外に出しているイメージだけにとらわれてはならないということです。つまり、目立った大きなフェスティバルでは、ほとんど同じ作品がいろいろな国を回っていますので、それを見ているだけでは、各国内における演劇界の現状はわからないのです。私は皆さんにアドバイスをするような立場にはおりません。私が日本から学ぶことの方が絶対に多いと思っております。しかし、アドバイスではなくいくつかの手引きを示しておきましょう。
今、自治体から予算を得るようになったというお話がありましたが、予算をもらったら、その予算を今度は管理しなければなりません。私が信じていることは、そうした予算を運営・管理するにあたって、スタッフはなるべく小さくするべきだということです。クリエーションのスタッフにしても、なるべく少人数の、人間関係が緊密なグループを作って、その人たちがアグレッシブに働くべきだと思うのです。公的な組織も、地方における組織も、大きすぎるものになることを絶対に避けてください。もちろん芸術的なプロジェクトを持っていることが一番大切ですが、今日有効なのは、稼働性の高い、少人数で、やる気があって、能力のある人々がグループになった単位であると私は思っています。
そして、閉鎖的な象牙の塔のようになった劇団に対して不信感を持ってください。自由と独立は、少人数の親密な関係の中においてのみ、保証されるものだと思います。民間の基金団体、協会、公的な機関などの機構をつけるにしても、よりシンプルにすべきだと思います。つけ加えて言えば、私は一つのコンセプトを持っていますが、それは経営に関して、劇場のスタッフの指揮をして経営のトップに立つのは、芸術であるべきだということです。今日、様々な劇場で、有名な経営学校を出たような人がアタッシュケースを持ってアドミニストレーターをやっているのを見ますが、そうであってはなりません。芸術家が指揮をすべきだと思います。
今までになかった助成金をもらうことになった際に、ちよっと誘惑されてしまうことがあります。それはその予算を使って常勤のスタッフを雇い、組織を拡大しようと考えてしまうことです。こうした誘惑は危険で、絶対に避けなければならないことです。私は常勤のスタッフというものに何ら反対はしませんけれども、経営管理をちゃんと行って、芸術的なプロジェクトを実現していけば、その際に多くの臨時の雇用を作って、広い幅の人々と働くことができるようになります。ですから、重い組織は絶対に避けなければなりません。今のところ、日本の方々には、まだそれほど予算はないのでそうした危険はあまりないようですが、これが私の哲学です。

 

 

 

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