資金をその次に持っている国が、デンマークとスウェーデンということになるでしょう。 フランスの例をあげたいと思います、フランスには国立劇場が5、地方の助成を受けて作られている演劇センターか125、そして国家と地方自治体の両方から助成金を受けている劇場が61あります。
これらの劇場がネットワークを作っており、それぞれが実にプロフェッショナルな活動を行っています。ただし、それぞれの使命や予算の規模は異なっています。ご想像いただきたいのですが、フランスのような小さな国の中に、 5つの国立劇場、125の地方演劇センター、そして国家と地方自治体の両方から助成金を受けている劇場が61あるのです。しかし問題は、カンパニーが1200もあることです。劇場の資金や使命や活動状況はそれぞれの経営陣の考え方によって違っています。
俳優や演劇関係者は、制度的に作られている劇場のネットワークの外側に、大きく拡がってそれをとり囲んでいます。ここで、先程申し上げた深刻な失業問題のことがおわかりいただけると思います。各劇場で働いている人の人数のことについてお話ししておきましょう。今申し上げたようなフランスの劇場には、常勤のスタッフが、だいたい20人ないし30人から、最大の所150人ないし200人います。それを超えるような劇場といえば、バスチーユの第二オペラ劇場があります。あるいはコメディー・フランセーズのように400人をかかえたところがありますが、それ以外の平均は、30人から150人ないし200人といった状況てす。ドイツでは劇場スタッフの数がもっと多く、少なくともほぼ300人から500人のスタッフを抱えています。
その中には、バレエやオーケストラのメンバーなど、あらゆる芸術のジャンルの人々も含まれています。こうした劇場の全てが地方に属する劇場です。つまりドイツでは、地方分権の伝統がとても長くあり、このような、地方が経営をしている劇場が150あって、それぞれ200人から300人ないし500人のスタッフが常勤で働いています。このような劇場では、一方でオペラを、その後では演劇を上演するという「アルテルナンス」(交代)と呼ばれるシステムが力を持っていて、そのレパートリーも広いものになっています。ヨーロッパの他の国の状況を、簡単にご紹介いたしますが、この紹介はとても遠く終わります。というのは、状況は実に悲劇的だからです。
イタリアでは国立の劇場は一つもありません。ストレーレルが自分の劇場を持ちたいと考えていますが、相変わらず彼が就任できるような劇場は作られていません。ですから、イタリアはおそらく、永遠に奇跡を待ち続ける国でしょう。スペイン、ポルトガル、オランダ、ベルギー、この四つの国は、こうした劇場の面から見ると、フランスやドイツの貧しい親戚といった状況にあります。つまり、地方自治体や国家から公的な助成金を受けている劇場がわずかしかなく、それも稀で、助成の金額も非常に小さなものとなっています。ですから、劇場の状況はこの四つの国ではとても困難です。
規模は少し小さくなってきますが、イギリスとアイルランドは、公的な助成金の少ない国です(逆に、デンマークやスウェーデンは、組織の仕方は違っても、フランスやドイツに次いで助成された公共の劇場が多く存在しています。ストックホルムは人ロー人当たりの劇場数が世界で最も多い町です。ブルガリア、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、リトアニア、そしてロシアでは、劇場はほとんど政情を反映した状況にあります。つまり、脆い、明日をも知れぬ状況で、資金不足と物資不足に苦しんでいます。最後に私達の劇場があるスイスについてお話しします。
スイスといっても、ドイツ語圏とフランス語圏を区別して考えなければなりません。フランス語圏のスイスは、全人口が160万人です。ドイツ語圏はドイツの制度から想を得ており、 ドイツを小型にしたようなたくさんのスタッフやシステムを持っていますが、フランス語圏スイスの方では、そのシステムは、貧しいとまでは言わなくてもドイツ語圏スイスよりも豊かでない状況です。
フランス語圏の劇場は、我々ローザンヌの劇場とジュネーブの劇場、この二つだけです。このように簡単に、ヨーロッパの以前と現在について図式的にお話ししてまいりましたが、この話が今後の青写真のようになり、ガイドラインとなってくれることを望みます。ヨーロッパの劇場の状況がとのようであるか、一つのイメージをうかべてくだされば幸いです。今まであげてきたいろいろな問題全てが、我々の未来を決定づけていくことは疑いようもありません。そうはいっても、このような問題があってもなお、我々は楽しく芝居をやっています。ですから、どうぞ悲観的にならないでください。
組織が重くなればなるほど、我々の存在理由、すなわち演劇そのものに逆行することになってしまう専門的な意味でいろいろな問題のことを話してしまいましたが、芝居をすることというのは、辛いところはあるけれども本当は楽しい行為であって、この「楽しみ」という考え方がもっとも重要だということを常に思い出していただきたいと思います。皆さんがどういう方々か、どういうお仕事をしていらっしゃるのかわからないのですが、劇場のアドミニストレーション、経営管理の問題にご興味をお持ちでしょうか。もしご興味がおありなら、我々の劇場の機能、経営・運営や予算についてごく簡単にお話をしますが、もし他のことにご興味がおありならその点は省略して、質疑応答に移りたいと思います。なるべく今回の話が生き生きしたものになるように、私はどんな質問にも逃げずにきちんとお答えしたいと思います。いかがでしょうか?
松井●ゴンザレスさんに説明しておきたいことがあるんですけれど、日本の現状をお話ししておくと、これまで日本では公的な援助というものが演劇になされることがあまりなかったんです。それがここ10年位でものすごく大きなお金が、国から、あるいは地方自治体から、どんどん演劇の世界、劇場の世界に流れこんでいる。去年あたりからは劇団に対しても、特定の劇団を選んで国がお金を流すということが、新しいシステムとして始まったところです。ですので、ゴンザレスさんがヨーロッパにおいて劇場は非常に辛い、悲惨な状況にあるというようなお話をされたんですけれど、こちらから見ると、ヨーロッパには非常に豊かな劇場文化があるという印象を私達は持っているんです。