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桐谷●ソクシーさんと山元がこの経過が始まる前に何通かの手紙をやりとりいたしまして、ソクシーさんから、お互い違う文化を背負った人間が作る芝居、その芝居の中でたぶん自分達はPETAの人間であるとともに、一緒につくるもう一つの新しいカンパニーとして作業を始めなくてはいけないのではないかという提案がありました。黒テントのメンバーも、黒テントのメンバーではあっても、新しいカンパニーで新しい作品にチャレンジしていくという姿勢が必要なんじゃないかと話していたんです。一緒くたになって、黒テント−PETAという劇団として活動しようじゃないかという話があったんです。何しろ私達は長い長い20年間に及ぶ友情とその関係性の中で芝居を作るんだから、おおよそのことは推定できると、そして私達は宗教も文化とも人種も違うと、基本的に違うと、ただし、その違いを解決する方向に向かうのではなく、それを演劇の創造の方に向けるということができたんではないかと、私達に答えてくれたところです。

ソクシー●私達がこの20年間の友情で感じていることは、お互いを信頼することが良い芝居を生む、ということです。ゲンさんや黒テントのメンバーの、PETAの俳優に対するダメ出しも全てそれは、私達の芝居を実り多いものにするためのものである、と同時に、私達のダメ出しは絶対に良い芝居を作るんだぞという魂から発する言葉であるということがリハーサルの間に理解できたことはとても面白いことでした。具体的に言うと、例えばこういうことです。私があるシーンを演出しました。それは、「私やPETAが持っている喜劇とは、」というコンセプトの元で演出したわけです。それをゲンさんが見てそれをいくつか編集したり演出し直したりしました。その時に私は「ねえゲンさん、これで喜劇になるの?」と聞いたことがあります。でも「ああそうか、もしかしたらこれが、喜劇なのかもしれないな」と、私は感じていました。そしてお客さんが笑ってくださったことで、「あ、これは喜劇だったんだな」と、今自分は思っているところです。だから、二つの劇団が一緒にやっていくには、これからも戦うことがあるでしょう。

山元●僕もそう思いました。PETAはPETAで僕達との付き合いを栄養にして面白い演劇をフィリピンで作ってくれる、もちろん、フィリピンの観客の人達に向かって作る、ということが第一テーマですから。僕達も僕達で彼らとの付き合いを栄養にして日本のお客さんに喜んでもらえるというか、面白いと思ってもらえる演劇を作ればいいことで、それぞれ自分の国で一生懸命やれっていう意見もあるかもしれないんですけれど、一緒にやってみるといろいろなことに気がつくんですね。やっぱり違うんですよ、センスとか。それはもちろん歴史も違うし、文化の在り方、演劇がその社会の中でどういう機能を果たしているか、どういう置かれ方をしているということも全部違うわけですね。
ですから彼らが演劇に託している思いと僕らが演劇に託している思いというのは違うんですね。やってみて感じたのは、やはり日本の文化というのは、違いばかりをずっとこう、もともとヨーロッパから輸入したくせに、「日本は日本は」って、「日本は違うんだ」っていうことばっかりを主張する。違いをはっきりしない限りお互いの了解項を持てないんだ、というような考え方が、圧倒的に主流を占めてきたと思うんですね。でも僕は、今の世界情勢とかその在り方から見ても60%ぐらい了解し合えれば、一緒にやってこうよ、って言うことができる、そういうアバウトな関係がどうしても必要じやないか。そうじゃないと、批判し合って、両方否定しきるまで、ものをやらなきゃなんなくなっちゃう。で、ものを作るっていうのは、批判して相手のものを滅ぼしてしまうことじゃないんじゃないかというふうに思えてきました。やっている間にね。

 

 

 

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