佐伯●そのかわり劇団員も私生活は最大限に自由が保証されるということをおっしゃってましたよね。
加納●そうですね。
佐伯●だから、花組の劇団員はバラバラでいて、プロジェクトごとに集まって離合集散するというような感じを非常に受けますね。
加納●うちの劇団は最近流行ってるワークショップというのは実は出来ないんですよ。うちの場合はワークショップを披露できるようなシステムが一切ないんです。全部現場主義でもって作っていきますから。だから、「花組の舞台でもってこういう演技をするためにはどうすればいいですか?」知りません(笑)。それは3年位、花組の作品何本か出ればわかるんじゃないですか。だから何も怠慢をしている訳ではないんですけれども、舞台の本公演のお稽古以外、うちは一切なんにもしないんですよ。ですから年間に3本くらいあって、2ヶ月3ヶ月の稽古とか公演とかってありますから、それ以外はご勝手にということで。
佐伯●それはとても新鮮に感じられますね。
加納●そうですね。日常的に稽古なさるところが多いみたいですね。
佐伯●それぞれがある意味で自由でバラバラで、何回か作品を観てますけど、公演の時以外は、そのまま自由にしている感じが出てますね。
加納●もちろん日常もそうですけども、演じる時もあなたらしさというのは自分でももうどうしようもないものじゃないかって。それを最大限に活かせば、誰もが真似のできないことができる。もちろん自分ができないことも可能性としてある程度追求しなきゃいけませんけども、自分のキャラクターを壊してまで、持って生まれた何かを壊してまでもやろうとするのは無駄じゃないの、みたいなことがあって、まんまでいてくれっていうことは強調しますね。考えたって考えたってせっかく自分の人間性を含めての魅力があるのに、それを消してまで役を演じようとするっていうのは損なことじゃないかな、そんな遠回りしなくてもいいんじゃないかな。
●加納 幸和 Yukikazu Kano
花組芝居座長、俳優、演出家、劇作家。1960年生まれ。日本大学芸術学部卒。87年、花組芝居旗揚げ。代表作に『ザ・隅田川』『雪之丞変化』『悪女クレオパトラ」等。著者に、エッセイ集「拝啓かぶき座の怪人さま」(近代文藝社)。
●佐伯 誠 Makoto Saeki
1945年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。アート、映画、演劇、スポーツ、モードなどの20世紀を表象するさまざまなジャンルを越境するエディター、ライター、 インタビュアーとして活動する。