佐伯●あの人江戸を行ったり来たりしてるんです。
加納●そうですね。何か不思議な、僕らにとっては異星人ですね。
佐伯●加納さんもそうですよ。
加納●その人から言われて、鱗が落ちたみたいに、そうだ、お芝居ってそうだって。
佐伯●僕も思いますけどよく映画なんか観てね、つまんなかったとか、筋がどうだったとかという人がいるんですけど、絵なんか見てあれだけ寛大なのに、なぜ芝居とか演劇になると、皆そのテーマだとか、ストーリーにこだわるのかとっていう気がすごくするんですけど、塊として見て、あるいは音を聞いたりすることで充分楽しめるのに、皆笑みを浮かべないですよね。
加納●ダンスもわけわかんないことありますよね。
佐伯●感想が言いにくいんでしょうね。
加納●ああ、そうでしょうね。
佐伯●それで加納さんが本にお書きになったことでとっても感心したんですけども、役者っていうのは、その日、その日で来る途中でもいいから見たもの聞いたものっていうのを自分の内在するセンセーションに活かすべきだと。そしてそれを舞台に活かすべきだっていうことをおっしゃってますね。たまたま今日そういう意味で、朝日新聞を見てましたら、いまギエムっていう100年に一人と言われているバレリーナが来てますよね。この人は機械体操をやっていた人で超絶技巧の人なんですけれども、この人のドキュメンタリーを見たんですが、感心したのは、この人はもう完璧に古典的な身体のイディオムというか、バレエのイディオムを身につけてて、しかも前衛的なコリオグラファーと組んで、自分の言語を崩すんですよ。それで常々加納さんは自分のことを前衛だっておっしゃってますよね。
加納●それは歌舞伎が前衛だということを含めて言っているんですが。
佐伯●それを説明するのに10年くらいかかったんじゃないでしょうか。
加納●そうですね、かかりましたね。まず、例えば取材とかで写真撮らせてください、つきましては女の格好してください、道端で見得を切ってください。そういう時期が最初の3年。
佐伯●やっぱりムッとしますか。
加納●そうですね、そんな恥ずかしいこと。切りたくもないのに、なんで切らなきゃいけないのか。
佐伯●流れがあるんですよね、見得を切る為には。
加納●そうなんですよ。そこだけ切ってもだめなんですよね。わかりやすく人に伝えるためっていっても何もそんなことしなくても(笑)。