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片や『私じゃない』という両極の中間の、一番ベケットのおいしいところを含む芝居が『しあわせな日々』なんですが、さっき言ったような悲しみとおかしみの音楽的なかわりゆき方、それをいかにうまく演じてみせるか。女優にとっての究極のチャレンジを、今日のナターシャは見事に受けてみせたと思います。

永井●この芝居を演ずるには、非常な意欲と勇気というものが必要ではないかと思います。2時間に渡って殆どの台詞を一人で喋られたナターシャ・パリーさんにお話を伺いたいと思うんですけれども、長い間温められて、ナターシャさんがやりたいとピーター・ブルックさんにおっしゃったんで、今回のプロダクションができたと聞いておりますけれども、実際はどうなんでしょうか。

ナターシャ・パリー●今の話は全く違います。間違っています。何度も同じ質問をされたので、可哀想なウィリーは同じ話を何度も聞いています。

ジャン・クロード・ベラン●48回は聞いた(笑)。

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ナターシャ●なぜこの役をやるようになったのかという質問はよくされます。ですから、話も聞き飽きていると思うので、ウィリーにはその間耳を塞ぐか、新聞を読むかなんかしていてもらいましょう(笑)。この作品、初演から間もなく、ニューヨークで初めて観ました。素晴らしい作品だと思いました。その後、パリでマドリーヌ・ルノーが演じるのを観て、私はその時も素晴らしいと思いました。イギリスでも観ました。5、 6年前になると思いますが、ピーター・ブルックが私に、「これは君がやると面白い役ではないか、やってみたらどうか」と言ったんです。私はその時、怯えてしまいました。「こんな恐ろしい役はやりたくない」と答えました。
でも、ピーター・ブルックはすすめるので、「嫌だやりたくない。この役は難しすぎる。難しすぎる上に他の女優さん達がすばらしい演技をするのをすでに観ているから、やりたくない」と私は答えたのです。また、一人で演じることが私は好きではありません。私は他の俳優達と集団でやって、台詞のやりとりがある方が好きなのです。ですから、一人で喋り続けるというのは私にとって悪夢の様に思いました。フランス語でこの芝居を演じるということも私にとって恐ろしいことでした。ですから、嫌だと言ったのです。ピーター・ブルックはとても頑固な人です。最初の提案をしてから、彼は3年間待

 

 

 

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