ゴンザレス●全てが出逢いの問題だと思います。哲学者モンテーニュとその友人ボエッシの関係についてモンテーニュが言ったことを言いたいと思います。「それが私だったから、それが彼だったから」という答えです。つまり、当然のもの、明白であるもの、それでしかないものというものがあります。それが人間と人間の出逢いではないでしょうか。そのレベルでもってこの作品が出来上がっているのです。人と人との出逢いです。それから一つ打ち明け話をしますと、昨日ここの劇場での初日を観ましたが、その時、ある意味で、これはローザンヌの初演の時のようだという感情を持ったのです。それで質問の答えになると思いますが、どこに持っていくにしても、先程私が申し上げた影の人々、技術スタッフの人達の責任はとても重大です。
もちろん外国で巡回をする時にはアップストリームでもって、何ヵ月にも渡って先に準備をしているわけですけれども、その影の人々、技術者達こそ違う空間でその作品をつくらなければならないという重大な責任があります。昨日の初日を観て、初めてこの作品を観たような気がしました。これが私の唯一できる答えです。この作品の中にはすばらしい俳優が2人出演していますが、その後ろには5人のスタッフが来日して彼らを支えています。こうやってスタッフを5人送るということは、我々の側で断固としてやっている決定です。すなわち、照明、メイク、全てを毎回フォローしてくれるスタッフがついているという事です。これは秘密でも何でもありません。
こうやってそれぞれの仕事が決まっていて、各回そこでやる際にはその部分が完全に保証されています。その上に違った場所といった要素が介入してくるわけです。場所との出違いが、ここのように、マジカルな力が働いて上手くいくこともあります。場所と、空間と、その劇場のスタッフとの出逢いが上手くいくこともあれば、時には、全てが揃っているはずなのに、何故かその出逢いが上手くいかないこともあるのです。巡業がかなり行われました。その大部分においてこうした奇跡が起きました。先シーズンは10ヵ所以上まわりましたが、お陰で大部分の劇場では、私の言う奇跡が起きてくれました。でも本当は奇跡は存在せず、そこにあるのは人間がやる仕事と、そして沢山の愛だということです。
佐藤●大きい拍手をもらえませんか。遠慮しないで。
●ルネ・ゴンザレス Rene Gonzalez
演劇プロデューサー、ヴィディ劇場ディレクター。1943年、パリ生まれ。71年からプロデューサーとして活動。サン・ドニ市のジェラール・フィリップ劇場、ボビニ劇場ディレクターを歴任。ロバート・ウィルソンやピーター・ブルック等、世界的に著名な演出家による前衛作品を一地方劇場で上演、国際的な注目を集めた。バスティーユ・オペラ座のディレクターを経て、91年、現職に就任。
●佐藤 信 Makoto Sato
劇作家、演出家。1943年、東京生まれ。自由劇埼の活動を経て、71年、演劇センター63/71黒色テント(現劇団黒テント)の創立に参加。30年代からアジア各国との交流を深め、演出作品「ヴォイツェック」ゃ「ハムレットマシーン」をもって劇団黒テントヨーロッパツアーを行うなど、国内外で上演活動を続けている。96年、世田谷パブリックシアターの初代シアターディレクターに就任。