ローザンヌの観客に近いものがあると感じました。どういうものなのかはっきりと説明することは出来ませんが、本当にそれを感じています。説明出来ないということはいいものだという証ではないでしょうか。
それではそろそろ佐藤さんからの質問にお答えをして、他のヨーロッパの劇場の動き方とどう違うかという事を考えなければならないと思うんです。まず申し上げなければならないのは私達の劇場のあり方は全く分類出来ない、通常の劇場のあり方からはずれたものだということです。他のヨーロッパの劇場とは全く違った機能をしています。私達自身が私達の劇場の動き方、機能を作っていったんです。私達のように、小さな劇場でいろんな事をしているのは一つの挑戦であって、70%以上を自らの収益で賄っているというのも一つの挑戦だと私はさっき言いましたけれども、これは絶えず危険な状態にさらされるということでもあります。ただし、その危険を自ら作っているという部分もあるのです。ある詩人の言葉を私はよく思い出します。「自分自身のリスクを自分自身の明晰さに取り替えよ」という言葉、それを常に思います。リスクから自分の明晰さを生み出そうというふうに考えている訳です。したがって私達の劇場は絶えずリスク、危険にさらされています。それは現実上のリスクであると同時に経済上のリスクです。そのために自然に独自的なものを探していきます。そのためには1回1回の仕事を大切にします。つまり私達は特別な目的を予め定めてそれに向かって突き進んでいくのではなくて、単にその時、今自分がしなければいけない仕事をしているだけなんです。こうした仕事のやり方をしていると、自然に様々な提案や企画が生まれてきて、それが外国からも求めてもらえるようになったということです。
私達がいるということ、私達が発している信号、この存在が伝わっているということが、ヨーロッパの演劇界において我々が実に規格外の機能をしているということを示すものではないでしょうか。ドイツやドイツ語圏のスイスやフランスでも私達のスタッフの数の2倍ないし3倍、時には10倍の人がいるところがあります。けれども私達の劇場の常勤スタッフは22名ないし23名で、このようにわずかな数で働いているということで、私達独自の劇場運営をすることが可能になっているんです。そして私達は今ここでやらなければいけない事をしている、それが重要なんですが、時にはそのために恐ろしくなることもあります。
佐藤●今日はこの劇場に芝居の制作をやっている方の顔が何人かみえますけれども、その70%を自前で稼ぎ出していくという話には冷や汗がタラタラと垂れたんではないかと思います。僕自身もそれはなかなか大変なことだと思いました。スタッフの数は、なるほど、22人では少ないというんだと。日本では、公共劇場で22人の常勤スタッフを持っているところは少ないですから。ちょうどこの世田谷パブリックシアターが同じくらいの人数ですけれども、そういうところでも随分条件が違うと思いました。お客さんが似ているのは、ローザンヌと三軒茶屋がそっくりだからだと思います。
ゴンザレス●一言だけつけ加えさせて下さい。70%以上自らの活動で予算を賄っている話には随分驚かれたようですけれども、この比率をあげた、前のシーズンが例外的なものだったということです。実際はシーズン毎に、本当にシーズンの最後に帳尻が合うかどうかわからない状態でスタートしています。ヨーロッパにおいてこの様な数字をあげることは殆ど挑発的な事だと考えられています。ヨーロッパにおいて今ある劇場に対する助成金制度のみが、芸術の自由を保証する制度だと私は考えているんです。
いろいろな演劇の為の場所や様々なストラクチャーは、このような助成金を与えられて動いていかなければなりません。70%という私達の数字、これは確かに凄い数字ですが、そのために私達はすごい代価を払ってきています。ですから他の方、絶対に真似をなさらないでください。私達は非常に豊かなプログラムを提供いたしました。今後も同じように続けていこうとは考えています。ただしそれは前のシーズンが最高の記録を出せたということであって、皆さん、同じ様な数字をあげようとか、そういったアクロバティックな事は絶対になさいませんように。
佐藤●先輩からの実に心のこもったアドバイスに、ほっとすると同時に無謀な事はしないようにと諭された気がします。そのプログラムの中で、ピーター・ブルックとサミュエル・ベケットの出逢いでこの作品をやるという案もあがってきたと思うんですけれども、これがレパートリーとなっていくキーを少し話していただければと思います。