「しあわせな日々」
1997年10月2日/シアタートラム
スピーカー:ルネ・ゴンザレス、佐藤 信
これからの劇場は人間にあったサイズのものでなければならない。
佐藤信●今日いろいろ伺いたい事が沢山あるんです。日本の公共劇場ではまだディレクターの制度というのがあんまり整備もされていませんし、例も多くありません。ゴンザレスさんが今ヴィディという劇場でどういうお仕事をなさっているのかということと、それが他のヨーロッパの劇場のディレクターとどういうところが同じでどういうところが違うのか、まず説明していただければと思うんですけども。
ルネ・ゴンザレス●お答えにはすごく時間がかかってしまいますね。私達の劇場ですが、確かにとても特別な所なんです。世界中のどこを探してもそれに相応する場所を見つけるのはとても難しいでしょう。ここの劇場と違って、私達の劇場は、儚い、一時的な建物であるということ、これが大きな特色です。劇場の規模は小さく、劇場のホールの座席の数も小さい。そして観客の数も限られています。これは私達がやっている作品内容にとって決定的な要素だと思います。私自身、中規模の劇場、大規模の劇場、巨大な劇場の経験もあります。そうした経験を経て今日思うことは、これからの劇場は人間にあったサイズのものでなければならない。
ちょうどここ(シアタートラム)の様に人間の体にあったサイズのものでなければならないと考えています。また、私達が行っている事の全ては舞台で実際行われる芝居から生まれている訳ですけれども、その舞台の持っている可能性と共に、その劇場がおかれている場所が重要です。私達の劇場は湖の畔にあります。そして名前も「水辺の劇場」というものになっています。そうした場所の及ぼす効果は中立的なものではありません。舞台というのは生きた人達が何かを行う場所ですから、その事について考える人、仕事をする人、そして観に来る人達に、おかれている場所は必ず影響を与えます。
このようにして舞台の枠組みが重要になってきます。従って極めて重要な二つの要素があると思うのです。最初に申し上げた、人間と非常に近しい関係がもてるという事、そしておかれている環境、この二つの基本的な要素が重要です。日本でもきっとおばあさんの世代の人達は同じ事を言っていたのではないでしょうか。小さくても我が家の方が、大邸宅であっても他人の家よりずっといい。小さいけれど本当に自分のものであるような我が家という点ではこの劇場は満点ではないでしょうか。日本の方々もお家が小さいと思うのでずいぶん満足していらっしゃるんではないでしょうか。
佐藤●狭いながらも楽しい我が家ですね。
ゴンザレス●それから私達の劇場ではスタッフの数も最小限になっています。これは本当に重要な事だと思います。スタッフの数が少ないということは、もちろん経営面、予算の問題からきたものではなく、我々が断固として成した決定なのです。スタッフの数はなるべく少なくします。そのためにはそのスタッフのそれぞれが能力の高い人でなければなりません。
実際に能力の高いスタッフが集まってくれました。私達の言う「影の人々」、黒子になる人全員がすばらしい技術者です。これはとても重要なことだと思います。なぜならば、そうしたスタッフの人達も、私達の劇場という企業、これは一つの企業なのですから、演劇であっても企業なのですから、それに対して本当に人間的に取り組んでくれるからです。また、ローザンヌ市から助成金を受けています。市のお陰で機能しています。ただし、私達自身でも収益を生み出しています。つまり私達の活動によって、私達の見せるプログラム、チケット収入、それから共同製作からくる収益、また他の国に巡業しての収益、そういった自らの活動から成す劇場自体の収益によって予算の70%以上を賄っています。
それから観客との関係もとても重要だと思います。ローザンヌでは、7年前から私は劇場のディレクターを勤めていますが、それ以前にパリやその近く、その他の町でも演劇の生活をずっと送ってきました。しかし今の劇場のように、観客との関係が、夢のようにすばらしい事はありませんでした。(ローザンヌの観客は)実に好奇心に溢れている観客であり、いい意味でナイーブな人達で、新しいものに向かって心を開いてくれ、とても注意深くて、しかも私達を愛そうとしてくれている観客です。私達が何かを提案してそれを見せ、観客が感応すると観客は本当にそれを外に出してくれます。表現することによって、俳優も、また劇場で働く人々も皆今までなかった程の報われた思いを持つことが出来ます。このようにローザンヌ市との関係は私達にとってとても重要です。というのは、いくつかの大きな都市では残念ながら観客との関係がそんなに直接的なものではない、それほどはっきりと出てこない、これほど強い力を持ったものではないということが多いからです。この点においても私達がローザンヌという町にいることがとても大切です。でも打ち明けなければいけないことがあります。皆さん方、日本のこの劇場の観客の中に、何か