日本財団 図書館


〈コミュニケーション・プログラム〉について

 

本フェスティバルでは、今回コミュニケーション・プログラムとして「アーティスト・ミーツ・アーティスト」「インターナショナル・ヴィジターズ・ウィーク」の2つの企画を実施した。

この企画は、目的、対象を絞った一連のレクチャー、フォーラムなどのシリーズである。 これは、単に発表の場を提供するだけでなく、消費都市東京の中でさまざまな困難に直面している創造的な活動を支えていこうという本フェスティバルの理念に基づくものである。双方とも「個人と個人が出会うところから、新しいものが生まれる」というテーマで、前者はその名の通りアーティストを対象に、後者は海外の舞台芸術関係者を対象に行なった。

 

「アーティスト・ミーツ・アーティスト」について(開催概要は17ページ)

 

「アーティスト同士が出会う」と題されたこのプログラムは、公演プログラムとは別の視点で企画されたものである。アーティストがアーティストと出会う機会は、創作現場をのぞけばそれほど多くはないのが現実だ。個の美意識に基づいて創作に集中的に取り組むアーティストは、オリジナリティの実現のために個別に創作するのがふつうである。一方、観客はアーティストの実現されたオリジナリティを楽しみ、またときにはそれを批判する。しかし、21世紀を目前にひかえた急速な時代変化のなかにあって、アーティスト同士の直接的なコミュニケーションこそが、共同作業のきっかけや新たな創作テーマをもたらし、私たちの鑑賞機会をより豊かにすると私たちは考えた。また、アーティストに対しては多様な現代社会の様相をアートがどうやって引き受けるかを問いかける場も必要である。アーティストが同時期に発表機会をもつフェスティバルにおいては、ア―ティスト同士出会いの場を積極的に設けて、未来の創造への布石を打つことが必要との認識から「アーティスト・ミーツ・アーティスト」はスタートした。

 

コンテンポラリーダンスセミナーでは、参加者を20代から30代前半のダンサー、コリオグラファーに限定し、2日間にわたって開催した。日玉浩史氏を講師に迎え、ダンサーの社会的位置付けをヨーロッパの具体的事例を参照しながらディスカッションしたこのプログラムは、社会を見据える目を持ったダンサーの必要性を参加者に示した。

013-1.gif

ベトナム人のコリオグラファーを招聘して行ったアジアの芸術家との交流プログラムでは、ベトナムの劇的な社会状況を体現したアーティストであるエア・ソーラ氏の眼を通して日本のダンス状況をとらえ直すことができた。「アイデンティティ」という言葉のもつ背景の違いが、両国のアーティストを驚かせ、大きな刺激となった。

013-2.gif

演劇とダンスに分けて行われたフォーラムでは、舞台表現の21世紀への展望が語られた。ダンスセッションでは、和栗由紀夫氏により舞踏譜と舞踏の関係を実演も交えて解説いただいた。身体表現であるダンスが、豊富で多彩なことばによって組み上げられていくプロセスは、舞踏への理解の大きな手助けとなった。

013-3.gif

 

013-4.gif

演劇セッションでは、佐藤信氏による基調報告を受けるかたちで、ラウンドテーブルによるディスカッションを行った。アーティストのみならず、制作者、劇場の企画担当者、助成団体関係者などが一堂に会し、ジャンルや世代を超えて演劇を取り巻く環境について具体的に語られたのは画期的であった。演劇におけるプロデューサーの役割や観客獲得のための方法などが大きなトピックとなった。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION