さて、これらの第2種兼業農家では、表6に示したように、殆んど林業を専業とする世帯(世帯番号6)を除くと、世帯主かその長男、あるいは長男の妻が、恒常的な職業についている。つまり、安定した給与所得が家計を主として支えているのである。非農家のはあいは、給与所得(町内の自動車修理工場)か軍人恩給が経済基盤をなしている。
(3)今後の見通し
この集落で世帯の基幹労働力が農業に向けられているのは世帯番号3の第1種兼業農家だけである。この農家は、8年前から減反転作として菊栽培を導入し、現在その面積は2反(半分がハウス)になっている。菊栽培は技術を要し、また手間がかかるために、稲作のように日曜農業として行うことはできず、また高齢者の労働では無理である。この集落の他の農家にはこのような菊栽培を導入する条件はない。
この集落の農業は、この農家を除いては、狭小な水田と野菜畑と栗畑で、世帯内の高齢者によって維持されていくことになるであろう。
従って、この集落の多くの世帯にとって家計上極めて重要なことは、将来にわたって通勤可能な範囲に安定した就業の場を確保できるかどうかである。住民の多くはこの集落での生活を続けることを望んでいるので、このことはその希望を実現する必須の条件である。
この集落での生活を維持していく上で今後課題となることは、交通上の便宜性、高齢者福祉、文化活動などの生活基盤・生活環境の整備・充実である。
この集落(あるいは近く)にはバス等の公共交通の便はなく、住民の集落外への移動は、もっぱら自動車によっている。町の中心地とこの集落を結ぶ町道は狭く、未舗装部分もかなりあるため、ガードレールの設置や道路の拡幅・舗装が望まれている。また、高齢者の殆んどは運転免許を取得していないため、社会福祉サービスや生涯学習の機会を享受するために、町の輸送システムの確立が望まれる。町の施設で行われている生涯学習(習字・和歌・俳句)にこの集落からの参加者があり、「生きがい」の点からも交通システムの確立が必要となろう。
また近くに体育館がないため、数集落が利用する体育館の設置も望まれている。
高齢者福祉サービスについては、世帯番号2の世帯の90歳の女性が週1回ディナーサービスを利用している。この集落の住民の高齢化が今後かなり急速に進むことが確実なので、高齢者福祉サービスの充実が、この集落の世帯にとっても重要となってくるであろう。