選んだのは、前にも述べたが、そうした数字以上に、この島で暮らす人びとの明るくいきいきとした表情に前々からひかれていたためである。この島なら、日本の高齢化社会を先取りして実際に担っているお年よりひとりひとりの顔がみえてくるのではないか。それがこの仕事に対する私のひそかなモチーフだった。(40-41頁)
佐野氏の着眼点に敬服する。そして先の言葉がそのまま問題点の要約になっている。
やはり今回の調査で平野地区の自治会長塩浦武さん、東和町連合婦人会長山川和子さんのご両人から地域社会のあれこれをお聞きしたが、そこでも登場したのが東和町のご老人の元気のよさであった。食べ物がよい、空気がよければ長生きは当然であり、お互い声をかけ合う横のつながりがあるから、何の心配もない、高齢化はわたくしたちが元気で長生きだからだ、という塩浦さんの言葉にも、高齢者の元気の理由がうかがえた。ここでは、いわば地域共同体が老人の自立を助けているとみた。
先きに高齢化対策に行政サイドの果すべき役割がますます大きくなっているといったが、しかしそれは同時に、老人から自立心を奪うことにもなりかねない要素をもっている。それに対して沖家室をはじめ東和町では、行政よりも集落における人間同志の関係がお互いの自立心を育てる土壌となっているわけである。もっともこれに対して山川さんが、最近ある寄合で意見を述べたら、「ヨソ者」呼ばわりをされた。自分としては集落の人間になり切っていたと思ったのに、大変情なかった。外の人にとっては入りにくい所ですね、との言葉も耳に残っている。それも一面の真実であろう。
東和町のあり方は、われわれに過疎とは何か、高齢化対策はどうあるべきか、という課題にいろいろ材料を提供してくれている。
(付記)
本レポートの作成に当っては、山口県大島郡東和町長西木宏、企画課第一係長菊本雅重、同第一係中田兼歳、ならびに山口県企画振興部地域振興課課長補佐高杉和典の各氏の御協力を得たことを記し、謝意を表する。
なお本文中に用いた統計数は、同町発行になる『東和町過疎地域活性化計画(平成7年度〜平成11年度)」「東和町長期総合計画基本構想・基本計画(平成8年)」による。