第4 コメン卜
1 過疎の明るさ
阿仁の集落は阿仁川とその支流に沿ってコンパクトに散在し、いわゆる限界集落と思われるものは存在しない。地域のたたずまいも住民の表情も明るい印象を受けた。調査時期が9月であり、積雪期だったらだいぶ印象が違ったかもしれない、とも思うが……。行政も各集落の状況をよく掌握して取り組んでいるのが印象的だった。
阿仁町は過疎の代表的な町とされているが、各集落とも日常生活の面では特に大きい差し障りは感じられず、生活道路、福祉施設などもかなり整備されている。ただ、ある集落の住民から「医者が不足している。いい医者はすぐいなくなる。手術も出来ない」という訴えを聞いた。過疎地の医者の確保の実態を点検する必要があるかもしれない。
人々が地域の生活をプラス思考で受けとめている印象も受けた。例えば、ある集落では水道がなく飲み水を湧水に頼っているが、住民は「ここの水はおいしい。働きに出ていた子供たちも、ここの水はうまいというので、おみやげに持たせてやる」と、むしろ自慢していた。行政のヒヤリンング、集落での住民との面接調査で、最も強調されたのは「働く場がない。だから若者が出ていってしまう」という過疎に広く共通する悩みだった。“働く場”は古くて新しい問題であり、究極の過疎問題であることを改めて確認した形である。過疎の表情は明るかったが、ヒヤリングや懇談で出てくる話題は暗いものばかりだった。過疎はやはり二つの表情を持っている。
このほかでは、町の役場が所在する中心集落に“勢い”がないのが気になった。地域の活性化には、核となる部分のけん引力が大切と思われる。
2 “観光”に活路
多くの過疎地がそうであるように、阿仁町も農林業や鉱業の不振、衰退から、「観光」に地域活性化の活路を求めている。同町の歴史と自然を生かした観光のメニューは豊富でいろいろと知恵を絞って取り組んでいることに感銘を受けた。神秘の狩人といわれる“マタギ”の里(マタギ資料館、熊牧場)、鉱山で繁栄を極めところにドイツ人技師が建築した洋風建物の「異人館」、豪雪を生かした森吉山のスキー場など、いろいろ工夫している。特に、“マタギ”の里は非常に魅力ある貴重な観光資源である。ただ、全体として今一つ決め手に欠けるうらみがある。これをどう克服するかである。観光メニューのエース格である“マタギ”にしても「マタギ資料館」の入場者は「熊牧場」の開設当初は増えたが、その後は減少しているという。熊牧場も開設時より入