「持ち込みPAについて」
イースペック株式会社 代表取締役 秋山逸嗣
【講義の概要】
序文から
楽器の発達に伴った音楽の演奏形態の変遷は、今日の音響機材の発展に大きく関与している。少人数を対象にして演奏された宮廷音楽の時代から現在に至るまで楽器は大きな音量を出せるように発展してきたが、特にギターなどの弦楽器にコイル型のピックアップが発明されて搭載されるようになってくると、電気的に楽器の音を増幅するアンプが次々に開発されるようになる。これにより演奏形態だけでなくその音楽までもが新しい表現力を得て発展していったのである。もちろん、バンドの中の楽器の音が大音量化してくる訳だからヴォーカルにもこの頃からマイクが用いられ、それに伴ってヴォーカル専用のアンプが登場する。
こうして演奏者の表現力は機器の発展に伴い大きく広がってきた訳であるが、われわれが携わっている音響技術者は、その表現力をより良く観客に伝えるために、演者の表現を理解し、その舞台に力を与えるよう努力しなければならない。
またPA(Public Address大衆伝達)と英語で表わされるように、演者の話している言葉や内容をすべての観客に対して、明瞭、忠実に伝えることはもちろんのことである。
例えば、レコードやラジオ放送で親しんだグループの音楽をPAを用いてコンサート等を行った場合に、それを見にきた観客は、ただ、ステージ上の音楽を忠実に伝えたのでは満足しないし、アーチストも不満を感じるであろう。そこでレコードのようにいろんなエフェクト処理やミキシングを施し、アーチストの表現したい音やリズムを作り出し観客にサービスするのである。
仮設音響の発展と現状
音響機器の発展は、映画用の設備から始まった。大出力を可能にする真空管の開発が始まり、それはやがてトランジスタ回路へと発展してさらに大出力化、大型化して行く。それと同じくしてスピーカーシステムに関しても同じように大出力高耐入力を目指して開発が進んだ。一方、音楽の世界でも楽器用のアンプの発達に伴って様々な新しいジャンル(ロックンロール、ロカビリー)が生まれ、その頃からヴォーカルアンプと呼ばれるスピーカーシステムが登場する。このシステムは、主にゾイレ型と呼ばれ1.5m程の高さの縦長のエンクロージャーにスピーカーを直線配列したものである。当時は、まだ高耐入力のスピーカーユニットが少なく、その結果、複数のスピーカーユニットを使用した構造になった。
その後、ビートルズなどの大規模なコンサートを行う時代がやってくると当然システムも発展し、これまでのものはフルレンジシステムであったのが、大型化、高能率化が計られてくるようになると、3ウェイ、4ウェイのマルチウェイシステムが生まれた。
この新しいマルチウェイシステムは、今現在でも活用されているが、当時のシステムのままでは、各周波数帯域を受け持つスピーカーの能率から低域再生用のものになるほど大きく数量を必要としたために、規模が大きくなればなるほど、スピーカーの前では低音しか聞えないというような問題が起きた。その解決策として、プロセニアム型のホールのようなスピーカーセッティングを行うために、フライング(吊り上げ方式)という設置方式が考案された。これはスピーカーシステムをなるべく全ての観客から同じくらいの距離に置き、均一な音場の再生を行うことを目的としている。
それには、3ウェイ、4ウェイのスピーカーが全て個別であると不都合なため1ボックス型のスピーカーシステムが開発され、フライングに対応するため頑強なエンクロージャーとフライング用金具が取り付けられるようになっている。また、各帯域のユニットの位置も位相調整のため1ボックスのなかで計算された位置に取り付けられている。このころからメーカーが作ったスピーカーシ