はそっくりそのまま作っているわけなんです。あの部屋はアンネだけではなくて家族もいるわけです。とにかくあの部屋の四隅全部をそれぞれの家族が使っているわけなんです。その物語は、映画だとカメラを部屋の中に入れていろんな角度で取れるわけです。場合によればセットですからその一つの部屋から4つなり5つなりにバラシテ別々に組んでそれをフィルムにしてつなぎあわせるということもできるわけなんです。ただ映画で違ったところは、屋根裏部屋の窓から光が入る、それは閉じ込められた部屋の中で未来への光だと思うのですが、それがアンネとピーターとの幼い愛というか将来の希望と言うものを象徴しているシーンに関してはやや本物の家よりかあの屋根裏部屋の明かり取りの窓はじっすにょりか高く作られていたのではないかと思うわけです。実際のものを再現するという以外に、そういうウソは映画の中ではあります。そこで考えられますが、今のドキュメント的にそう言うものを取ろうとしたらあの部屋の中にカメラを持ちこんで部分取してそれを編集してあのドラマを作ることもできます。ところが舞台の場合はそうは行きませんとにかく正面に舞台があって、観客席があるわけで一方の壁、一つの面の壁を必ず取り払わなければなりません。そこにいくらリアリズムの芝居と言っても観客に後ろを向けた芝居はできませんからその4つの部屋というものは、ウソを作らなくてはならないわけです。ウソを作るところに矛盾のないように観客から見えるようにウソを作るところに舞台デザインのテクニックというかポイントがあるわけです。それがいかに演出しやすいか、逆に俳優の導線が上手の客、下手の客、二階の客から公平に重要な芝居が見えるかということを考えた場合に、実寸とは別の、また部屋の間取りに関しても全部ウソを作らなければならない。そのうすが本物らしく見えるようにすることが一つのテクニックです。そこに省略ということがどんなリアリズムの芝居でも出てくると思います。
舞台ですからもっと別な形で観客に暗示させるということもできると思います。写実的なことで暗示させるということは、簡略化写実舞台と言うふうな言葉を使いますが、ドアひとつで部屋の中と言う形を表す。例えば、ホリゾントの前に鳥居ひとつあれば神社ないしは日本ということを表していくと言うふうなやり方もありますし、もっと象徴的なものとなったら人間の心象風景と言ったものを舞台の上に出すと言うふうなこともひとつの方法としてできるだろうと思います。そういう風にいろんな形で非写実なところで舞台は上演しているわけです。
それは皆さんも仕事の中で、今回は非常に非写美的な心理的なものに訴えた抽象的なものであったり、また、今言いましたようにドアで部屋を表す、窓枠でテラスを表す、と言うふうな一つの記号化ですね。記号化した舞台、それは簡略化舞台だと思うんですけれど。そう言ったものをよくご覧になっていると思うわけです。そう言ったものは作品の中身を熟読して、演出家と密接な打ち合わせを持ち演出家の企画意図、プロデューサの企画意図、持ちろん重要な作品の意図を考え併せてデザインして行くわけなんです。それが役者が非常に動きやすいか、演出家が役者を動かせやすいかということを前提に構成しなければいい舞台にはならないと思います。そも結果、抽象的なものになったり象徴的なものになったり簡略化された写実的担ったりすることがあると思います。このようなことでデザインは進められます。
わたしが学生のころは、自然主義リアリズムが中心の舞台だったのですが、岩田直治さんが夕鶴演出するということで、、岩田直治さんと言えばリアリズムのすごい演出家だと言う概念があったわけですけれど、その岩田直治がこの作品はファンタスティックにやろうとその当時としては幻想的という言葉を使いました。田だの鶴の恩返しの民話ではなくて、幻想的な美しい舞台を作ろうということで、舞台デザインはそのためのものでないといけない、写実ではいけないと言われて苦労しました。日本の伝統的な幻想的な作品なのでどこか大和絵的な日本の味を残せと言われて、演出家の意図したものを表現することに苦労したわけです。
その当時にシアターアートと言うアメリカの雑誌を見たとき、アーサーミラーの「セールスマンの死」の2場面の写真を見たのですが、写実的だけれど芝居で必要でないものが一つもおいてなくて、例えば家が一見建っているのですけれど枠組みだけでシンプルで、小道具はいす、テーブル、ベッド等必要なもの以外は何もないという舞台でした。芝居の中では何十年かさかのぼるところがあるのですが、壁があるべきところがすっと透けてその後に何十年か前のビル街ができるのです。
