好きでも嫌いでもなんでもないわけですよね。そういう人と話をするときの苦しさというのは、これはもうもう大変なものなのです。一からピンまで全部はなしてもまだ分かりませんから。それはもう当然ですよ。わたしはもう30年か40年になりますけれど、まだわりません。そう言ったふうなものが芸術であるとわたしは理解しています。
作品を作るために創造という言葉があります。創造力という言葉があります。この力がないと芸術作品というのは、実は、できないんです。これは皆さんが後天的に、先天的にもっていると僕は思いませんが、努力することによっていつからでも蓄えることができるのです。だれでも持っている要素なんです。そして、創造ってなにかと言ったら新しいものを創って行く力なんです。
10人やれば10人の照明ができます。目的が一緒であってもその入り方というかプロセスというものは全部ちがいます。だから夜を創ればみんなブルーの明かりを作ります。だけどその創り方というのは全部ちがいます。一緒の者は恐らく無いだろうと僕は思います。そう言う力が実は創造なんです。
我々の世界ではこの力を使ってできた結果「あいつはセンスがあるやないかとか、いけるで」と言う言葉で表現してくれます。だからこの力を養うことによって、芸術にかかわらず事務にしろ何にしろ全部一緒だと思うけれど、自分に対して非常に豊かになる、また表現も豊かになってくるということになってくる。
創造力というのはそれぞれが個々の人間がですよ、過去にどんなことをどの程度経験しているかによって決まってくるんです。経験の浅い人は舞台照明で表現することができません。その経験をいかに意識的につかんでいるかということによって、この力が出るのです。だからそれは今からでも遅くないですし、始められた方がいいんではないかという気がします。どうしたらそれを養えるのか。
日常生活の中でいろんな物事、照明さんは特に照明に関することを意識的に見てるか体験してるかということです。体験というのは人間の五感全部です。そういった体験を数多くする必要があると思います。そうすると豊かになります。いったん見て、例えば照明さん、ここに入ってきて「何でここ明るいの」と言う感覚を持たないといけないです。
これはどんな職場でも同じです。特に照明やってものは、光源がある、外光が入ってくる、それじゃこのままのものが舞台の上にのったとき、どんな照明をしたらいいかを考えることができます。どの辺りでお客さんがどこにいて、こういう公演形式のものが舞台上であったらどんな照明をしたらいいのかと、光源はこことこことならばこういう照明にしたらいいなということがわかるわけです。
ただ、そういうことを毎日毎日やっていたら大変なことになりますから、いったん見て忘れていただいても結構です。そういうことは脳のどこかに残っていると言われています。残ったものと同じものを体験すると思い出すということがあるんです。「あのときのあれやっ」そういう経験が必要になってくるんです。
創造力と言うのは、これは自分が養うものであって他人が養うものではないのです。芸術というのはすべてそういうものだと僕は思っています。だから年功序列と今やかましく言われていますけれど、いわゆる古典芸の世界ですけれど年のいったものが師匠なんです。芸が下手であろうがなんであろうがとにかく師匠なんです。その人は経験があるから師匠と呼ばれるんです。その経験というのが今言った創造力の根底となる一つの要素なんです。無意識のうちに彼らは持っているわけです。だから照明は見ること、意識的に現実を見ることがいかに大切かということです。こういう現場にかかわっていない人についても同じことが言えると思うんです。事務をしていても何をしていても人間関係においても、「なんで?、なんでやねん」、と疑問を持つことが必要です。結論は、先ほど言いましたように要りません。疑問だけでも結構です一つの点を頭において考えていただければ照明というのはだれでもできますから、そういうふうに考えていただければと思います。芸術家というものの基ですから。芸術家というのはゴールは無いんです。どんなに年を取った名優に話を聞いても「私はまだまだですよ。これからですよ。まだまだ勉強しなくて