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は、よそから持ってきたのかもしれないんです。それをこの村のものですって言ったら大恥です。

そして考え、あらゆるところを聞きました。そしたらある本屋さんで、たった1行ぶつかりました。「文政3年八代で江戸歌舞伎上演」というたった1行に出会いました。隣の町なんです。江戸時代の習慣として隣の町で江戸歌舞伎をやりますと、周辺の村のいわゆる野舞台でもやったもんなんです。ああ、江戸歌舞伎を招くだけの力がこの周辺にあったんだ。それじゃあこの程度のお祭りは出来るな、よし、やろうということにしました。そのたった1行に出会うために1年半かかりました。

本来ならば、文政3年球磨村棒踊りとしたいんです。また、その地域の人のためにも名付けてあげたいんです。だけど私は相変わらず文政3年棒踊りなんです。球磨村でこの踊りが上演されたという資料に私出会わないと。出会ったら球磨村棒踊りとしてあげると。だけどそれまでは文政3年棒踊りでやってください。それは歴史に対する私の良心だ。自分の良心を偽ることはできない。だから依然として文政3年棒踊りでやっています。

つまり伝承芸能をやろうとする時に、そうした故実、史実を探ることが、そしてそれを正確にお客様に説明してあげるということが非常にむずかしいんです。その努力をするのは誰かというと私は文化会館だと思っています。文化会館が地元のために実際に踊ってもらって、きちんと歴史的に事実を立証してやる。そういうことは文化会館がやってやるべき仕事だというふうに思っています。

例えばその三十三座を興すときにも、中にこういう題の座があるんです。「綱の母」というのです。「綱の母」というと、大体渡辺綱のおっかさんと思いますよね。あの鬼退治をした渡辺綱の母。しかし、このお神楽は古事記の雨の岩戸の物語なんです。渡辺綱なんて関係ないわけです。なんでこんな題になってるんですか。村の人も全然わかりません。親がそういってましたから、みんな親がそういってましたからなんて。私、これを散々考えました。やっと思いつきました、これを万葉仮名にしてみました。万葉仮名にすると「つ」というのは「津」で、「港」とか「波打ち際」です。「な」というのは「茶」、「奈落」などと使います。「いちばーん底の」とか、あるいは「なら」という場合は「一番良い」という意味です。あるいはこの「奈落」というのは「一番底」という意味です。「一番の」という意味ですね。

そうすると波がいちばーん寄せてくる渚のことではないか。しかも「母」というのは万葉仮名にすると「はは」ですよね、「波、波」です。もしかしたら、波うち際にさざ波が寄せ合ってくる、波が戯れているのを表現するのかな。三十三座の中で男神、女神が出てくるたった1

 

 

 

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