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戦争中、どうせいつかは戦場で死んでしまうんだから、どっかそれまでは静かなところで本を読んでおこうと思いまして、私は旧制高校、この高知にも旧制高校がございましたが、はるばる、津軽の弘前の高等学校へ参りました。

戦後は戦前の学生はみんな読んだ「三太郎の日記」という本があります。これがいわゆる大正ロマンの基礎を築いたといわれている本でございまして、著者が阿部次郎先生でございます。阿部先生が東北大学でまだ美学の講義を、名誉教授として年に1回なさると言うんで、いわゆる大正ロマンの基礎を築いた阿部先生の講義を聞いて、完全なる教養主義といいますか、この常に人間を優位に考える、その阿部先生のお考えに接したいと思いまして、旧制の東北大学へ参りました。

阿部先生という方は、戦争中、学生がみんな戦地へ招集されて参りました。いわゆる学徒出陣でございます。皆さんがよくテレビでご覧になる、あの雨の中を神宮球場で行進いたします。あれでございますが、あのために東北大学の学生も戦地へ行くことになりました。その壮行会の席上で、軍関係者がずらり並んでいるところで、「君達の本分は戦争にあるのではない。君達の本分は学問にある。どうか全員帰ってきて再び共に教室で学び合おうではないか。」という大演説をなさいまして、軍関係者がびっくりしたわけです。

ほとんどそれだけで戦争中は死刑に値するような言葉でございますが、そういうことを堂々と言って、そこに人間の自由、学問の自由ということを常に標榜されてきた方でございます。

ロマンチシズムにあふれて、阿部先生の考え方が大正ロマンの基本を築いたわけです。その先生のお声に接したいと思いまして私は東北大学へ参りました。

戦争直後、旧制高校時代が3年ございますが、丁度1年生の終わりのところで戦争が終わりました。寮の中に600人学生がおりまして、私はこの委員長に選挙されてしまいました。半年毎に選挙で変わるんですが、どうかすると中に、創立以来何人か、1年間やってしまう人がいるんです。大変な激職でございまして、学校に出ている暇がないんです。自治寮でございますんで、あらゆる事務を学校との連絡から何から寮生一人一人のことから、全部やらなければならない。平和な時でも委員長を2期、1年やったら旧制高校を3年で卒業できないという大変な激職なんですね。

それを終戦直後の食糧が何にもない時代に私は何と4期、2年やってしまったのです。ですから1日も学校に出てないんです。しかも、私は全学生の集合体である学友会の委員長にも選ばれました。今だったら何でもないんですが、クラブ活動が戦争で中断されておりましたのを次々に再開していきました。野球部を開く、テニス部を開く。ところが、全国の当時の帝国大

 

 

 

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