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ユーモア賞

岡田一郎

78歳 千葉県浦安市

テーマ

今、自分が社会に対して出来ること

サブテーマ

高齢者の心に元気印を

こんにちは岡田一郎です。「それでは今日も謡曲の稽古をいたしましょう。発声練習からいたしましょうね。」「イ、工、ア、オ、ウ」五、六回繰り返しますと、緊張していた皆さまの顔に、笑顔が広がってきます。眼も生き生きと輝いてきます。少し暗かった部屋も、パッと明かりがついたようです。男女十五名、平均年齢七三才の謡曲教室です。講師を務めます私は七八才です。私は今、千葉県の『カーサ・デ・かんぽ浦安』という老人ホームに住んでいます。東京ディズニーランドが見える、十階建てのホテルのような建物です。二百三名入居しています。レストランの料理はおいしい物があります。イベントも盛り沢山です。月二回のバス散歩や、美術館巡り…等々です。健康については、ナースが二十四時間いてくれます。幸せを絵に描いたような楽園です。でも「ハッピー」ですかと問われますと、残念ながら「ノー」なのですね。レストランで、交わされる会話は「橋本さん亡くなったんだって…。」「おれ達だっていつ…。」「もう妻も居ないしね。」そんな会話をしたくないのか、 一人ぽつんとしている人もいます。そんなある日、館内ベンチに一人の婦人が、一点を見つめて二時間も涙ぐんでいる姿を私は見かけました。私はこの楽園に、たった一つ足りないものがあることに気付きました。それは心の空しさです。与えてもらうだけでは、決して癒されない心の空しさです。何とかしなくては”私に何ができるのだろうか…。“

もう十年も前のことです。私は『ギランバレー症候群』という、手足がしびれて歩けなくなる病気

 

 

 

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