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インフラの面でも充実した地域社会を形成したい。例えば,電話の効率的な利用態勢,無線やコンピューターネットワークの活用による情報インフラの整備が必要である。無線が緊急時に役立つことは言うまでもない。携帯電話などの無線情報の意義を書き連ねる必要もあるまい。電話に関しては緊急時に公衆電話を無料化すとことや,安否確認の時期には1人1分といった通話時間制限を設け,多くの人に緊急連絡の機会を提供するなど具体的な提案をしたいまた,コンピューターネットワークは,今回の事例でも明らかになったように被災地内部での貢献は決して大きくない。とりわけ被災地内部では緊急時にはコンピューターネットワークは役に立たない。そもそも特定の人々しかアクセスすることのない情報源にどれだけの価値があろうか。しかし,コンピューターネットワークそのものが無用の長物というわけでは決してない。現在特定の人々しか使用しないコンピューターネットワークであっても,その有効性を十分に認識し,平常時から多くの人々がアクセスするようにしておくことこそが大切である。関東大震災のときの電話がそうであったように,現時点では限られた人々しか使用しないものであっても,情報経路を複数もつという意味で今後に期待がかかる。

 

提言3 地域ボランティアを育成すべきである

ボランティアを含んだ地域社会の形成の意義は強調してもし過ぎることはない。神戸や西宮は「最も住みたい町」として人々の関心を集め得るという事情はあったとしても,ボランティアが殺到した背後には豊かな都市文化に共通の社会的背景があったのではなかろうか。豊かさに関する議論は従来さまざまなところで論じられ,都市文明における村落的連帯感の希薄化が叫ばれ,中間集団からの自立が促進され,地域の時代と言われてきている。これまで人々は産業化時代を通して一方に硬い戦闘的な生産組織を持ち,他方には漠然とした隣人の顔の見えない大衆社会をもって,その中間にあるべき人間的な集団をまれにしか知らなかった。人は前者の中で安定を楽しみながら不自由をかこつか,後者の中で自由を享受しながら不安を味わうかのいずれかであった。しかし,80年代以降,両者の中間に立つ組織が育ち,いわば隣人の「顔の見える大衆社会」に生きる時代が到来するとした論者もいる。今後我が国が真の意味で豊かな社会を形成し,高齢化社会を迎えねばならないという現実を見たとき,地域においてボランティア活動を日常化しておくことの意義は計り知れない。

ボランティアを組織するボランティアとしてスタートしたNVNは,西宮という地域社会において地域ボランティアとして活動を続ける。今後地域に根ざした活動を展開する際に,立ち直りつつある被災者や地元の既存団体といかに接していくかが今問われている。NVNの地域ボランティアとしての活動は,ボランティアを含む都市社会の地域活性化という興味深い観点を提供している。つまり,地域活性化は何も村落社会の専売特許ではない。無論,村落社会のそれとは多くの点で異なった運営を行うことになろう。だが,同時に共通点も多いはずである。村落社会の活性化の事例との比較検討を通じて,ボランティアを含む都市社会の活性化について議論が展開されるべきであると考える。また,高齢化社会に関する議論はあまた聞かれるが,誰がどのようにケアしていくのかということについてただ行政の体制を批判するだけでなく,ボランティアを含んだ高齢化社会に関する洞察を深めねばなるまい。高齢化社会が“高冷化社会”にならないためにもボランティアを含めた地域社会の構築について議論していかねばならないであろう。

 

提言4 広域可動型ボランティアの保持を検討すべきである

今回の震災で広域からボランティアが殺到することが明らかになった。先の提言もこれらボランティアの存在を前提としていた。しかし,今回の被災各地の状況を眺めてみると広域ボランティアを組織化することの困難も同時に明らかになったと言える。元来,被災地の復興は被災地住民が主導権をもって行っていくべきことであろう。しかし,緊急期においてはボランティアの力に頼らざるをえない。明確な指揮系統をもたず特殊な技能があるわけでもないボランティア達を組織化していくことが何よりの課題となる。つまり,今後各地で起こり得る災害に向けて初動時における組織形成支援を考えていかねばならない。そのためには,各地域でボランティアを育成するだけでは不十分である。なぜなら,実際に災害が発生すると被災地のボランティアは初動時から活動することが困難だからである。従って,被災地外からボランティアとして救援に駆けつけることのできるようなボランティアを各地域で準備する必要がある。しかも,ただ現地に赴くだけでなく,殺到したボランティアを組織化することに専念するボランティアが派遣されることが必要になる。言いかえれば,日常時は地域で活動するボランティアであるが,緊急時には広域的に動くことができて,しかも被災地においてボランティアの組織形成を支援するボランティア,いわば「広域可動型組織形成支援ボランティア」の育成が望まれるのである。

 

(略)

 

 

 

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