の痛み、彼らの優しさ、心の温かさを知っていて、そしてまた、私が彼らとこれからの人生をともにするということを、彼ら自身もわかっているのです。
そのような状況だからこそ、たとえば、精神分裂病の人に、「いまの精神医学ではここまでわかっていて、治療としては、この薬で、ここまでのリハビリができる。私たちが提供できる治療は、いまはこれで限界だけど、これからも一緒に考えて、お互いに頑張りましょう」といえ、インフォームド・コンセントは成り立つのです。
それと同じ考えで、痴呆性老人に関しても、「ぼけ老人を抱える家族の会」をつくり、当事者たちと一体となって考えているのです。痴呆の方の初期段階から診断にかかわり、そして、いまの医学でわかっていること、薬物、ケアシステムについての話しをします。そうすると、「この人と一緒だったら頑張れる」という信頼感が得られ、これが私の活動を可能にしている理由かもしれません。やはり、私のケースは少し特殊といえると思います。
【紀伊國】 稲庭先生は、1週間に2回グループホームに行き、活動しておられます。これは大変なことと思うのですが、さて外国では、痴呆高齢者に対するインフォームド・コンセントの試みは、どのようにされているのでしょうか。
【バレット】 アメリカでは、インフォームド・コンセントの手続きは非常に公式化されており、どのプロジェクトに関しても、まず、施設や病院の評価委員会で評価を受ける必要があります。そして、それぞれの場合に、どのような治療を行いたいかということをもとに、同意書を得なければなりません。これはガイドラインに基づいて行われます。
次に、委員会にそれを戻す前に、たとえば精神科医、病院運営委員、法的専門家といった人たちがチェックして、同意書のなかにガイドラインに基づいた用語情報が入っているかを確認します。場合によって、痴呆症の人が署名するというときには、同意書をつくった人のところに戻して、信頼性のあるものかどうかについて委員会で検討し直します。
そして、書類の言葉が適当なのか、もっとやさしい言葉を使ったほうがよいのかなどについて判断するために、実際に痴呆症の患者に対してテストを行い、その後書式を決定します。
【パウロス】 バレット先生がいわれたことと同じように、インフォームド・コンセントは手続き化されており、倫理委員会のようなところで評価が行われています。
オーストラリアでは、そのために、どのような治療対策を取るべきなのか、どのようなレベルの同意が必要なのかなどについて厳しいガイドラインをつくりました。また、たとえば、緊急治療が必要な場合には、生死にかかわる問題になりますので、患者から同意を得なくてもよいという特例も設定されています。しかし、精神薬が必要な場合には、正式の同意書を得なければならないというようになっています。
さらに、患者が十分に理解していないという場合には、重大な治療をしなければならないのか、だれがその介護をするのか、親類、家族がかかわるのかなどについて、状況を評価したうえで、さまざまな事柄を決定し、保護者、介護者を設定するという場合もあります。つまり、その患者のニーズを満たすという努力をしています。
【紀伊國】 いま、保護者の問題が出されましたが、痴呆の患者さんの財産問題については、だれがどのようなことを行えばよいのでしょうか。
これは、法律で明確に処理すべきであるという議論がありますが、だまされて財産をなくすというようなケースも報告されています。スウェーデンあるいはアメリカ、オースト