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稲庭千弥子

 

大学病院は、施設ケアという観点からも医師に対する教育病院であるべきだと思うのですが、稲庭先生は、その点についてどのようにお考えですか。

【稲庭】 私は、医師を育てるときに、医療福祉の現場を見せないで医学教育をするのは間違っていると思います。私の母校である川崎医科大学の自慢話になってしまいますが、川崎医大では、昭和45年から医学概論の授業のなかで、学生に医療福祉の実態を見せて、学生自身の医師としての方向性、日本の医療福祉の問題などについて考えさせるという教育が行われています。

また、非常勤として勤務している秋田大学医学部でも、昭和55年ごろから同じような教育をしています。私自身も、秋田大学の学生に対して、毎週土曜日から日曜日にかけて、私の病院で主に老人科と精神科を実習の形で教えています。やはり、医師、医療の専門職を育てるには、現場で基礎となるものを教えることが重要だと思います。

【紀伊國】 この会場には、パウロス先生の奥様、バレット先生の旦那様もいらっしゃいます。

ロザリン・パウロスさんはニューサウスウェールズ大学で教えておられるわけですが、教育ということについてコメントをいただけますか。

【ロザリン・パウロス】 痴呆についてだけではなく、老人医学一般として、大学での教育は欠如していると思います。オーストラリアでは、学生が実地で経験することはありません。

そこで、老人病の生涯教育を進めるために、私の大学では遠隔教育パッケージをつくり、痴呆を含めた医師のための情報を集めています。忙しい医師になる学生が、時間のあるいまのうちに、将来役に立つ分野を勉強しておくことは重要です。具体的には、インターネットを使って講師とやりとりしています。オーストラリアは国土が広いため、このようにインターネットを使った教育もあり、海外からも受け入れています。

【紀伊國】 バレット先生の旦那様は、コロンビア大学の臨床神経学の先生ですが、医師の教育、看護婦の教育についてなにかコメントをいただけますか。

【バレット(夫)】 痴呆は、一定の人だけではなく、だれでもがかかる可能性のある病気だということを認識しなければなりません。

臨床神経学者として重要なことは、痴呆症は病気のプロセスから出てくる症例としてとらえ、その原因を理解しなければならない点にあります。アルツハイマー病以外にも痴呆を起こす原因はいろいろあります。高血圧、脳血管症、炎症性のようなもの、またヘルペスなどから脳障害や脳炎を起こし、これらが原因でやがてアルツハイマー病になることも考えられます。また、B12欠乏症が痴呆の原因になるとする見解もあります。

私たちは、痴呆の原因となる疾患を調査、追求すると同時に、痴呆症状は、病気のプロセスであり、それが自然と行動の変化に現れるものであることを理解し、時間をかけた治療で症状を改善することが大切なのです。

【紀伊國】 会場の皆さん、ほかになにかご質問はありませんか。

【質問者】 私は、医療機関に勤める理学療法士ですが、日本の在宅ケアは、大変遅れていると感じています。

日本の高齢化率は15%、福島県では18%、また会津地方では、より高い伸び率で高齢化が進んでいます。その状況のなかで、新ゴールドプランや介護保険などの政策を進めているのです。

日本では、まだ施設ケアへの志向が強い状況にありますが、これからは在宅志向に変わ

 

 

 

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