
シャスティン・ルンドストロョーム
いろいろな医療関係者が痴呆の教育活動に携わっておりますが、オーストラリアの高齢者センターや公の病院においては、家族に対しての教育を行う専門の看護婦がいます。この看護婦は、老年心理学や痴呆症に関する勉強をしており、一般の人や家族に対しての教育では、医師よりもむしろ重要な役割を占めているといえます。
【ルンドストロョーム】 1994年に、スウェーデンでは1万人の人に対して、「痴呆についてどう思いますか」という調査を行いました。すると約半数の人が、痴呆は、加齢による結果で、異常なことではないといっているのです。このように痴呆は、一般的なこと、普通のことで、自分自身の問題なのです。
また、痴呆をすべての面で重くとらえてはいけないと思います。高齢で少し記憶に問題があったとしても、それは不十分な食事や肺炎などほかの病気による記憶障害の場合もあり、すべてを痴呆症ととらえてはいけないのです。
私は来週、スウェーデンで、アルツハイマー病の老人病学者とシンポジウムを行うことになっています。彼女は60歳で、アルツハイマー病を発症していて、その彼女の経験を通して痴呆の問題を語るというシンポジウムです。
彼女は車を運転するのですが、時々、家に帰る道がわからなくなると、車を止めて、「どのように行けばよいですか」と人に聞いています。鉛筆と紙をいつも携帯して、わからなくなったら書いてもらって指示を受け、間違いながらも家に帰っています。
このように、彼女は自分で自己を管理することで、問題を克服しているのです。また、痴呆の人自身がそのような状況を語ることが重要で、痴呆はだれにでも起こり得ることという認識を深めるのに役立つのです。
【紀伊國】 バレット先生も、ルンドストロョーム先生も、看護婦の資格をおもちですが、看護教育において、痴呆高齢者に対するケアについての問題をどのように教えておられるのでしょうか。
【バレット】 アメリカでは、老人医療を専門に扱う老人臨床専門医、老人医療専門の看護実践士がいるのですが、いま、ほとんどの大学でこれを段階的に撤廃することになっており、一般的な看護教育において、痴呆高齢者にかかわる教育がなされています。
また、特別な教育プログラムとしては、老人向けソーシャルワーカーの教育があります。アメリカ各所に老人教育センターというものがあり、ニューヨークではテリー・フルマー博士を先頭に活動しています。これは、集中的な訓練プログラムで、1週間から2週間の訓練を通して老人医療にかかわる問題が取り扱われます。ほかには、2、3日の教育プログラムもあり、どのような医療専門家も資格を得ることができます。その資格を得たうえで、特別な訓練を受けた人にはその専門分野の仕事が認められています。
さらに、クレビュー大学では、心理老人学プログラムがあります。このプログラムは、心理学者が2、3か月の研修を受けた後、老人の介護にあたるというものです。アメリカの痴呆症の教育は、看護婦に対する教育のなかでは非常に大きな部分を占めているといえます。
【紀伊國】 日本には、「21世紀の医学と医療に関する懇談会」というものがあり、大学病院のあり方を検討しています。大学病院は、老人医療に果たす役割は大きいはずなのですが、ところが実際は、老人保健施設や特別養護老人ホームを併設している大学病院はないのです。そのため、一般的に医師は、高齢者施設でどのようなケアが行われているのか知らないという状況があります。