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ここで、在宅ケアのあり方について、会場の皆さんのご質問、ご意見をお聞きしたいと思います。

【質問者】 バレット先生がお母様に「専門のお医者さんへ行きましょう」と直接話され、施設についても2人で納得するまで選ばれたことは、大変素晴らしいことと感じました。

その点で、痴呆高齢者をどのようにケアへつなげていくかということと関連するのですが、郡山での実例をお話ししたいと思います。

地域のヘルパーさんと民生委員が、ある老人の痴呆に気づき、内科の医師へ行ったのですが、症状が微妙で明確な診断はされませんでした。その後、保健所の老人精神相談の先生や保健婦に相談すると、処遇検討部会や高齢者サービス調整チームなどで検討したほうがよいということで、原先生の医師会に相談を持ち込むことになったのです。その結果、専門の精神科の先生が、「3週間入院させたら地域に戻しましょう。皆さんは、患者が地域で生活できるような体制を考えてください」という助言をくださいました。この連携により、その老人は、地域のなかで独り暮らしができるようになったのです。

郡山では、相談する窓口がこのように整っていたのですが、そのシステムや情報がないところでは、だれがどのように医師会や専門医の門戸をたたき、確定診断が受けられるかというところに問題があると思います。

国によりそのシステムが違うのでしょうが、診察を受けるための働きかけについて、おうかがいしたいと思います。

【紀伊國】 これは大変難しい問題です。まず、正確な診断をできるだけ早く受けるにはどうすればよいのかという問題があります。これは、教育にも関連するのですが、医療担当者への痴呆に関する教育を充実させなければなりません。

もう1つの大切なことは、痴呆に対する偏見をなくすことです。やはり、精神科への嫌悪感から、なかなか相談できないという現状があります。また、地域のなかでの痴呆に関するケアシステムの構築という問題もあるのです。

パウロス先生は、教育という面でどのようにお考えでしょうか。

【パウロス】 どのようなテーマにおいても、十二分な教育が行われているというのはまれなこととは思いますが、今後ますます痴呆症患者が増加することを考えると、痴呆に関しては、これまで以上に教育を重視すべきだと思います。また、いろいろなレベルでの教育、啓蒙が必要です。

オーストラリアでは、地域の教育・普及活動に力を入れているアルツハイマー協会、またケア提供者のための協会があり、この2つの組織が、介護者や一般の人たちに対して教育・啓蒙活動をしています。

行政当局やACAT(高齢者ケアアセスメントチーム)では、デイケアサービスなどについての教育を行っています。

また、医師に対しての教育も行っており、いわゆるファミリードクターに対しては、痴呆症に関する教育に力を注いでいます。医学雑誌には、5人に1人の割合で痴呆症になること、高齢者のうつ病についてなどがよく掲載され、医師への啓蒙活動につながっています。

また、老人の問題を専門にしている精神科医もおります。しかし、こういった先生方は数が少ないので、どちらかというと、行動に問題があったり、あるいは精神的な治療を必要とする人たちをみているわけです。

 

 

 

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