
クリストファー・パウロス
ビスでも皆さんにとっては大変なご苦労があると思うのですが、そういう意味でも介護保険によってそのレベルが上がることを期待したいと思います。
さてオーストラリアには、在宅という視点から、おのおのの家庭の状況を考えたうえで、それに対応するケアを診断するためのアセスメントチームがあると聞いています。これは効率的にいえば大変なことと思いますが、パウロス先生、そのあたりのことを含めてお話しください。
【パウロス】 私は、痴呆症に関しては、在宅での管理、家庭での診断がきわめて重要で、必ずしも医師が診断する必要はないと思っています。
オーストラリアのアセスメントチームでは、なるべく早い段階に、チームの一員がそれぞれの家庭で診断します。これは、痴呆専門の看護婦、療法士や心理学者が行ってもよいと思います。そのような人が実際に家庭で診断し、報告書を書くわけですが、その報告書はチームメンバーに見せると同時に、医師にも見せることになります。つまり医師は、直接ではないとしても、報告書という形でその情報を知ることができるわけです。
確かに、正確な診断がきわめて大事なことではあるのですが、家族が痴呆に関する知識をもつことも大切なことです。日本では、アルツハイマーより脳血管性痴呆が多いようですが、たとえば、高血圧の予防、禁煙などを注意することで、病気の進行がある程度予防できるわけですから、ケアに対する周囲の人の意識も大きくかかわってくる問題なのです。
アルツハイマー病の予防については、まだ明確にはわかっていない段階ですが、適切な投薬をしなかった場合、患者は混乱し、痴呆症がさらに進むことがあります。また、痴呆症の人が、感染症や肺炎などの急性疾患で入院している間に、痴呆が悪化するケースも考えられます。つまり、家族は、このように痴呆が悪化する場合について理解することが大切なのです。
オーストラリアのアセスメントチームは、私たちがケアを行うためのネットワークの要素にすぎません。やはり、地域社会が痴呆症に関しての認識をある程度もたなければならないと思います。私の患者には、毎日1kgの肉を買っていたところ、お肉屋さんが「毎日1kgも食べるはずはない」と気づいたのがきっかけで、痴呆が発見されたという例があります。
特に、高齢者と接する機会が多い警察官やホームケアの人たちは、痴呆症に関する教育、訓練を受け、知識をもつことが必要です。それにより、痴呆を判断することができ、地域社会のその他のサービス機関、一般開業医などとの連携が図れるのです。
また、先ほどルンドストロョーム先生がいわれたことと同じですが、医師へ行くことを拒む独り暮らしの高齢者には、何度も足を運んで、顔見知りとなって、診察を勧める必要があります。
痴呆高齢者を取り巻く状況には、どこの国も共通した問題があると思います。
【紀伊國】 在宅介護支援センターでは、痴呆に関する相談が多いと思うのですが、長谷川先生、いかがでしょうか。
【長谷川】 たとえば、デイサービスセンターの利用者の42.9%、入所者の30%が痴呆という状況になっています。
【紀伊國】 特別養護老人ホームは、特に痴呆の方が多いことが報告されています。
さて、もしも自分が居住している地域から出なければ特別養護老人ホームなどの施設ケアを受けられないとするなら、やはり在宅ケアの充実が問題になります。