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紀伊國献三

 

を選択できること、そして周囲の人々がその高齢者の身になって考えることが大変重要だと思います。

おそらく、高齢者は自分から、「痴呆のようなので医者へ行こう」という気を起こさないものだと思うのですが、ルンドストロョーム先生は、どのようにすればできるだけ早く正確な診断ができるとお考えでしょうか。また、ニーズに合わせての、施設ケアと在宅ケアの組み合わせを考える場合、スウェーデンではどのような状況にあるのでしょうか。

【ルンドストロョーム】 痴呆と考えられる人をどのようにして診察に連れていくかは、痴呆を取り巻く状況のなかでは最もよくみられる問題だと思います。

実は私のおばも痴呆でした。夫であるおじが、おばの様子がおかしいと気づいて私の父に相談にきたのです。おじは、「妻は料理をすることもできない。これは、病院ではなく老人ホームに行ったほうがよいのではないか。でも、彼女には自分からはいえない」というのです。このように、周囲の人が気づいても、医師に連れていくことは簡単ではありません。

その解決法として、たとえば地区の看護婦による家庭訪問があります。看護婦が患者と何回か会って顔見知りになってから、「これから何年も家庭で生活できるように、お医者さんの手助けを受けましょう」と説得するわけです。娘のいうことをよく受け入れる母親の場合などは、看護婦がその娘の親友という形で訪問し、医師に紹介することができたという例がかなりあります。

痴呆症と診断されてからは、地域にあるホームヘルパーのサービス、デイケア、ショートステイ、グループホームなどの情報を知らせることが大切です。そして、最も適切なサービスはなにかを考え、その高齢者のことをよく知っている人と常に連絡を取ることが重要です。また、高齢者の周囲にいる人たちに痴呆について教育することも大切です。

スウェーデンでは、すべてがうまくいっているわけではありませんが、できるだけ長く家庭で生活できるようにということを目標として掲げています。そのためには、元気なうちに、痴呆になったときの生活に対する望みや意思を伝えておくこと、そのような話しができる環境をつくることが重要ではないでしょうか。

痴呆は、年齢が上がれば上がるほど増加していくものです。つまり、痴呆症の人は、別の惑星から来た宇宙人ではなく、私たちみんなが痴呆になる可能性をもっていることを認識しなければいけないと思います。

【紀伊國】 いま、われわれの回りにいる高齢者の痴呆の人たちを大切にすることは、未来の私たち自身を助けることになるという素晴らしいご発言でした。

ここで、会場の方のご意見をお聞きしたいと思います。

【質問者】 私の親は農家で、弟夫婦が家で痴呆高齢者の面倒をみています。痴呆の本人は、自分の家で暮らしたいという人で、昼間1人だけになるのは耐えられないとはいうのですが、他人である外からのヘルパーも受け入れたくないという思いがあるようです。

日本では、座敷牢とはいわないまでも、自分の家で面倒をみるのが当然で、外には出さないほうがよいという考え方が一般的に定着しているように感じます。これからは、痴呆の本人も、周囲の人も在宅ケアの意識を高めるように環境を変えていくことが大切ではないかと思います。また、痴呆にはさまざまな種類があり、症状がそれぞれ違うようですから、このシンポジウムではいろいろな話を聞いてみたいと思います。

【紀伊國】 ありがとうございました。確かに痴呆には、脳血管性痴呆、アルツハイマーが

 

 

 

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