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ヴァージニア W.バレット

 

たとえば電話料や電気料を必要以上に繰り返し払っていたのです。そこで、家計簿の管理を私に任せてくれるように母に頼みました。母はアパートで独り暮らしをしていたのですが、家計簿だけは私に任せてくれるようになりました。

しかし、母が85歳ごろになると、その変化がますます目につくようになったので、私は母に、「コロンビア大学にある記憶喪失などを診察するクリニックに一緒に行きましょう」といったのです。以前から私を信頼していた母は、抵抗することもなく病院に行ったのですが、そのときアルツハイマー病と診断され、MRIの診察では、脳に複数の小さな梗塞があることがわかりました。

母と私は、何でもずばずば話せるようなとてもよい関係だったこともあり、私は母に対して、アルツハイマー病にかかっていること、これからなにをすべきなのかなどについて、率直に話しをすることができました。

その後、母は脳梗塞になって入院し、幻覚症状が出たり、パラノイアになったりと、さまざまな症状が発生しました。退院後は、在宅サービスを受けていたのですが、母は自分で何でも管理する性格から、ホームワーカーを次々にやめさせてしまったのです。また、その人たちがあまり訓練されていなかったためかもしれないのですが、警察を呼ぶ騒ぎが起きたりもしたのです。

そのようなことがあり、在宅サービスでは母の面倒がみられないことから、私は母を引き取り介護にあたっていました。当初は問題なく過ごしていたのですが、母が90歳のとき、転倒して腰の手術を受ける事態になったのです。手術は成功し、3週間、リハビリ病院に通ったのですが、結局、寝たきりになってしまい、私が家にいない限り母の介護ができないという状況になったのです。しかし、私としては、ケアのお金を稼ぐためにも仕事をしなければなりません。そこで、母を任せられるナーシングホームを探すことになりました。

約20か所のナーシングホームを見て回って感じたことは、そのホームの考え方を確認することがとても大切であるということです。私は、母のニーズや私の理念、条件に一致することを基準にナーシングホームを探し、最終的に納得がいき、私の職場にも近い施設を選びました。施設が、子どもや友だちが簡単に行き来できる場所にあることは、施設選びのとても重要な要素になると思います。

母にとって大事な条件として、個室の確保という点がありました。母は、テレビ嫌いの人間で、長年の独り暮らしから、だれかと一緒に部屋を共有することができず、そのプライバシーを守るためにも個室が必要だったのです。また、母はグルメでもあるため、食事がおいしいことも条件の1つでした。そして、学生ボランティアが来てくれるところがよいという思いから、その体制が整っていることも考慮に入れ、ナーシングホームを選んだのです。

結局、最も大切なことは、当事者である高齢者のケアに関する理念を一番に考えなければならないということです。母は私に、強制的に注射されたり、食べたくないのに食べさせられるのは嫌だと、はっきりといっていました。

ナーシングホームなどの施設を選ぶ際には、当事者のことをよく考えることが重要で、個人としての尊厳を認めなければいけません。またこれはケア全体についてもいえることだと思います。

【紀伊國】 感動的なお話を聞くことができました。やはり、高齢者自身がさまざまなもの

 

 

 

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