現在は、痴呆症に携わるナース、痴呆症に関心のあるナースは、デイケアセンターやグループホーム、痴呆症のナーシングホームで何年か経験を積んだ人たちで、何週間かの専門の教育を受けたりしています。しかし、国全体としての教育制度はなく、自治体、地域ごとにプログラムは変わっています。
そういう意味では、よい教師がいることが大切なことでもあり、私はベック・フリース先生という方に長い間教わったことで、この分野への関心をもったのです。つまり、関心をもつこと、関心がもてるような環境づくりが最も重要なことだと思います。
【バレット】 アメリカでは、大学レベルで訓練を受けている老年学のスペシャリストがおります。また、アダルト・ナース・プラクティショナーという専門家、それから、ジェリアトリック・ソーシャルワークを専門にしているソーシャルワーカーもおります。
州レベルにおいては、老人精神医になるためのサポート、訓練を実施しています。内科医の先生に対しても、2〜3か月ぐらいの専門的なプログラムに参加することにより、老人を専門に扱う医師になるような制度があります。
【紀伊國】 それでは、そろそろまとめに入ろうと思いますが、日野原重明先生、長年のご経験を通してのコメントをいただければと思います。
【日野原】 会場の皆さんから随分いろいろな質問や意見が出されて、私たちも非常に勉強になりました。また、外国から参加いただいた先生方は、日本の皆さんがどのようなことに興味をもち、問題と感じているのかがおわかりになったのではないでしょうか。このように、老人痴呆の問題を分かち合い、勉強しようという気持ちをお互いにもつ機会がこのシンポジウムで得られたことは、非常によかったと思っております。
皆さんの討議にもありましたが、施設ケアと在宅ケアをいう場合、また、施設あるいは病院のケアを考える場合に、そのスタッフの数は、アメリカや北欧と日本では非常に違うという点があります。看護部門でいえば、日本では、大体平均して、看護婦は2人の患者を受け持つのが最低限で、この最低限度が定員になっています。施設においても大体それと同じように、4分の1ぐらいの数で日本の施設は運営されており、ここに大きな問題があると思います。
日本では定員法というものがあることから、公の施設では人数が決まっていて、機械は買ってもらえるけれども、人件費は増やさないという原則があるのです。そして、この最低限度の原則に民間も右へならえの状態で、これを守っていればよいという考えをもとに病院が経営されているところに一番大きな問題があると思います。
老人ケアが非常に進んでいるスウェーデンなどの北欧では、社会主義的な考え方から、本当に立派な、日本とのギャップを感じるような充実した設備の施設がつくられています。日本ではいま、老人のための施設がやっと個室でつくられるようになりましたが、本来はその部屋にトイレもお風呂もあるのが当然なのです。日本は、病院においても共同トイレを使っているところが多く、個々にバスルームがあるのは少ないという現状で、ここに大きなギャップがあります。これは、日本の一般家屋の構造が非常に遅れていたために、病院や施設の設備面でも遅れたといえるでしょう。
外国では、充実した施設のために大変な費用をかけていたのですが、現状では、政府としても財政的に苦しいことから、同じお金をかけるのであれば、個人の生き方を満足させるというQOLを高めるためにも、わが家、あるいはグループホームでのケアにお金を使うべきではないかということで、傾向としては在宅ケアに比重が移っています。