日本財団 図書館


はいくつかあります。専門医となるための、2週間に及ぶ缶詰め状態の講習や、厚生省が行っている痴呆疾患専門医の研修プログラムなどを通して、いま、一所懸命教育し、専門医をつくっている段階です。しかし、決してこれで十分ではなく、専門医となる人数はたかがしれているわけですから、もう少し教育機関を充実しなければならないと思います。

皆さんご存じのように、医者というのは、医療に関するすべての分野を勉強し、国家試験に合格してから医者として認められるのですが、その後、なにを専門に勉強していくかは自分たちに任されてしまうわけです。そういう意味では、精神科医としても、勉強する場の間口が狭いというのが現状だろうと思います。

また、諸外国の例をみて思うことですが、日本では、医師ばかりではなく看護婦についても勉強の機会が少ないと感じます。やはり専門性をもった看護婦、あるいは介護のプロフェッショナルが必要なのです。イギリスなどの場合、痴呆に携わる精神科専門看護婦になるには4年を要するのですが、そのうちの3年間は、精神科だけを専門に勉強しなければならない。しかも、看護婦になってから、年間に何十時間かのカリキュラムを受けないと資格が維持できないのです。つまり、その職についている間は生涯勉強しなければいけないわけで、また、その勉強の機会が与えられているということです。

日本では、そういう意味で、専門職に対する教育が非常に甘く、その場を与えられてもいません。ですから、今後、痴呆にかかわるスタッフ、現場でケアにあたる人の単なる人数的な問題と同時に、そのうえで専門的にいろいろなことを指導できるスタッフの数、またその教育をどのようにするのかが問題としてあると思うのです。

いま痴呆に携わっているスタッフの人は、多分勉強する場所を与えられていないのだと思います。そしてその場所を探すことも大変困難な状態です。これからはもっともっと力を入れていくべき問題だと思います。

【紀伊國】 パウロス先生、専門家のトレーニングに関してはいかがでしょうか。

【パウロス】 オーストラリアでは、痴呆に関する精神科医、つまり老年精神科医がおりますが、これらの専門家が痴呆老人の管理に参加しているかどうかは地域によって異なっています。これらのジェリアトリシャン、老年学の専門家は、イギリスにもアメリカにもいると思いますが、日本では大勢いらっしゃるのでしょうか?。

一般的にオーストラリアでは、痴呆の評価、管理はジェリアトリシャンによって行われ、精神科の専門家がその診断にあたります。特に、ある特別な形の痴呆症、早期の記憶喪失、診断がはっきりとしないようなものについて専門的に扱うわけで、ますます精神科の専門家がマネージメントにかかわるようになってきています。さまざまな療法を扱う専門家がかかわっているのが現状で、開業医、精神神経科医、神経科医も参加しています。

また、老年医学、リハビリ学の訓練プログラムでは、かなり大きな部分が痴呆症の教育にあてられています。老年精神科医になるためには、精神科医になってからこの面の訓練を特別に積まなければなりません。

【紀伊國】 先ほどルンドストロョーム先生は、痴呆に携わる地域ごとの看護婦について話されましたが、その専門的な教育について、スウェーデンの実態はいかかでしょうか。

【ルンドストロョーム】 私がナースとしての教育を受けたのは、1969年の終わりごろでしたが、痴呆についての教育はほとんどありませんでした。私はその後、自力で勉強を重ねたり、学校で小規模な教育プログラムを受けたりしました。当時は、精神科の医師でこの面での能力をもっている先生は少なかったのです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION