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いていましたが、やがてホームヘルパーにいろいろ命令や指示をするようになり、補助器具を使わなくなりました。そして、隣りの人からは、「徘徊してますよ。ヘルパーの人はなにをしているのですか」と、いろんな苦情が来るようになってしまったのです。ホームヘルパーは、本来なら非常に熟練し、痴呆の扱いを知っている人たちなのに、母の態度に対応できなかったのです。

【紀伊國】 やはり、この痴呆問題に関しての教育はとても重要なことだと思いますが、パウロス先生、なにかコメントはありますか。

【パウロス】 この教育の基本的な目標としては、一般の国民の人たちが意識を高めるということにあります。具体的には、特に、痴呆症の存在、その症状、支援のあり方などを教えることが目標となるべきだと思います。そして、地域社会の意識を高めることができたなら、次には、グループに的を絞って教育を行わなければいけないのです。つまり、レジデンシャルケアワーカー、そのマネージメント、ホームケアワーカーの管理といったところに移っていくべきだと思います。

たとえば、アルツハイマー病などの知識を深めて、その予防対策が確立されるようになった段階では、また新たな治療のプログラムが出てくるでしょうし、新しい投薬、治療が普及するようになると思います。そうなると、教育、公衆保健などの措置を、また新たに拡大しなければいけないのです。

【紀伊國】 先ほど建築の問題が出されましたが、稲庭先生は、グループホームの設計、設備に関してのご苦労を経験されていると思います。なにか注意すべき点がありますか。

【稲庭】 建築に関してはたくさん失敗しました。最初、民間和風住宅を借りたのですが、老人向けにはなっていなくて、トイレを和式から洋式に直すこと、段差、手すり、それから階段などの問題がありました。

階段の次の段への境目がよくわからないので、そのあたりをマーキングするのですが、ちょっと黄色がかっためがねをかけて見てみると、何色が見にくいのか、何色がわかりやすいのかが認識できます。このように、実にさまざまな工夫が必要で、それらの経験を生かして「もみの木の家」や「あじさいの家」をつくりました。工夫すれば経費的にも安くできますし、お金のかけ方が問題ではないと思います。

【紀伊國】 さて、先ほどのもう1つのご質問は、痴呆の専門家の必要性、その教育体制、あるいはそこにたどり着くまでの体制が問題ではないだろうかということでしたが、千葉先生、問題点、あるいは解決策を含めていかがでしょうか。

【千葉】 現在、痴呆に関しては、精神科の医師が専門に担当している状態ではありますが、もちろんすべての精神科医が痴呆に精通しているわけではないのです。たとえば、内科の医師でも、心臓の専門、胃の専門などと専門領域があるように、医師には自分が得意とする分野はおのおのあるわけです。しかし残念ながら、「私はなにが得意です」と宣伝したり、看板に掲げることは医療法で禁止されているので、そういう面では、大変困っているというのが現状です。

ですから、現在のところ手っ取り早い方法としては、老人性痴呆疾患センターなど、専門として指定されたところで診断を受けることが一番当たり外れがないだろうと思います。青森県には現在、そのような施設が5か所あり、11年度の目標として、もう1か所増設することになっています。

また、医師の側、精神科医のほうとしては、痴呆に興味のある先生たちが勉強する方法

 

 

 

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