いくには、どのようなことが重要とお考えでしょうか。
【稲庭】 早期発見のために一番大事なことは、一般住民への教育・啓蒙だと思います。ここ数年来、厚生省、市町村や県は、痴呆は癌などと同じように、早期診断、早期治療、早期リハビリテーションすることである程度ブレーキがかかって、重症にならないとしています。私自身も、大体1か月に1回のペースで、早期診断・治療・リハビリテーションに向けた教育・啓蒙活動をしています。
日本では、痴呆に関するシステムがいくつかありますが、本来は、痴呆疾患センターに相談に行けばよいことなのです。ところが、「痴呆」という名前がついているために敷居が高く、実際は痴呆疾患センターに行かないで、在宅介護支援センターやかかりつけ医、民生委員、行政が行っている電話相談などに話しをすることが多いのが現状です。
そういう意味からも、私どもの啓蒙活動では、かかりつけ医、ホームドクターに対して、痴呆とはどのようなものか、どのような対応をとればよいのかについての話をしています。痴呆に関する相談を受けたときに、適切な助言ができ、相談者をいい意味でレールに乗せてあげられるような啓蒙活動を行っています。
スウェーデンでは、シルビア王妃が先頭に立って「痴呆年」というキャンペーンを大々的にやりました。日本でも同じように、痴呆に関する教育・啓蒙活動を大々的に行うことが大切になると思います。
【紀伊國】 千葉先生は、精神科の専門という立場から、もっと早く相談に来ればよいのにというもどかしさを感じているのではないでしょうか。これは、痴呆に対しての行政の不十分な面が関連しているのでしょうが、そのあたりのことをどのようにお考えでしょうか。
【千葉】 確かに「もっと早く相談すればよい」とは思うのですが、やはり痴呆に対するイメージの悪さが大変大きい問題だと思います。
いま稲庭先生がおっしゃったように、痴呆に関するPRはとても大切です。スウェーデンの王室の方が大々的に行ったことには、やはり、自分の身内に痴呆の方がいて、その状況を目の当たりにする機会があったからだと思いますが、影響力は大きなものがあります。アメリカの元大統領も、自分がアルツハイマーであることを堂々と発表して、その行為自体が啓蒙活動になっているという面があります。日本でも同様に、ある程度影響力のある方々が、自分たちの体験から痴呆に関しての発言をすることが大きな力になっていくのだと思います。また、それによって痴呆に対する誤解がなくなっていくのだろうと思います。
直接的な啓蒙活動以外の面でいえば、健康診断の内容として、身体の検査ばかりではなく、脳機能に関する検診も加えられないのだろうかという点があります。日本人の定年は平均60歳で、勤めている間は年に1回ぐらいは健康診断を受けます。退職後は住民検診という形になり、受ける人も、受けない人もありますが、この検診のなかに脳機能のチェックがあれば痴呆に対するとらえ方が変わってくると思います。
自分の脳機能はいまどれぐらい維持しているのだろうかと、年々自己チェックするようなシステムは、知ることが恐ろしいという面もありますが、実際、糖尿病や体重、心臓、肝臓機能はどうだろうと、みんな心配しているのです。それと同じように、脳の機能を検診し、検診表でぼけていないかどうかを自己確認するわけです。また、検診表に「再度検査を受けたほうがよい」というようなスクリーニング検査といった項目があれば、痴呆の早期受診につながっていくのではないでしょうか。同時に、家族が助言しやすい状況にな