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山中朋子

 

一方、介護者の状況は、被介護者との関係では、嫁が44%、配偶者41%であり、その年齢層は、嫁では50歳代が45%、配偶者では70歳以上が半数以上を占め、介護者の高齢化がうかがえます。さらに、介護上の問題としては、痴呆老人の問題行動や精神症状への対応の仕方がわからず、家族における人間関係がうまくいかないというケースもみられました。また、徘徊、攻撃的行為、弄便などの不潔行為や見当識障害などの症状に振り回され、疲労困憊している家族の様子がうかがえ、家族の間では相談に来るまでにさまざまな葛藤があったのではないかと思われます。「もっと早く相談に来ていれば」という私たちの思いとは裏腹に、痴呆症状に気づいてから相談あるいは診察に至るまでの期間は、5年以上経てからが25%にも及んでおり、これは、保健所における痴呆老人の状況把握が難しい状況を示しています。

次に、保健婦による家庭訪問は、平成8年度の状況をみますと、保健所の保健婦の訪問件数が62件、各市町村の保健婦の訪問件数は267件となっており、市町村での対応が多くなっています。市町村の保健婦の訪問指導は、老人保健事業における痴呆性老人の訪問指導として、精神症状を呈するもの、または異常行動のあるものを除いた痴呆性老人の初回訪問指導です。これにより把握した状況や指導状況について、市町村の保健婦は毎月10日までに保健所に報告します。また、老人保健事業以外の精神症状を呈するものや行動異常のあるものについても、保健所は市町村からの報告を受け、協議しながら総合的に対応しています。

老人性痴呆疾患対策の普及・啓発事業としては、老人性痴呆疾患予防講習会があり、毎年、市町村から希望を募って、地域住民を対象に開催しています。しかし、この活動は啓発事業としては有効ですが、参加者が高齢である場合が多いため、予防という観点からは、壮年層への働きかけが大切であると感じています。

痴呆性老人を抱える家族を支援するための集いとしては、当管内ではここ数年、年1回開催していますが、参加者は10名前後で、まだ家族会としての発足には至っていません。そのほか、関係機関の連携調整活動としては、保健福祉サービス調整会議、高齢者サービス調整チーム会議、シルバーSOSネットワークなどによる連携活動があります。

以上のように、各種老人精神保健福祉活動を行っていますが、私どもの保健所では、2名の精神保健福祉相談員と1名の事務職だけでこれらの業務を担当しています。そのため、その他の多くの業務を抱え、家庭訪問による情報収集、分析などは不十分といわざるを得ない状況にあります。

さて、老人性痴呆対策は、対応上、日常生活環境を重視する必要があるだけに、地域でケアすることが重要な要素であると思います。痴呆があっても安心して暮らせる町づくりを進めるために、地域保健法で求められている保健所の精神保健福祉活動を強化することが重要です。同時に、市町村においては、精神障害者の社会復帰対策という観点からも、身近で利用頻度の高い保健所との協力体制を構築することが今後の課題であると思います。

従来は、地域における精神保健福祉活動の主体は保健所、福祉サービスは市町村として、ある程度の役割分担をしていました。しかし、実際には保健所の相談窓口には市町村からの紹介が多いことや、保健婦の訪問件数も市町村のほうが圧倒的に多いことなどから、今後は地域の精神保健福祉活動の全体的なレベルアップを図るためにも、痴呆性老人の早期発見、早期対応、家庭訪問、デイケアなど、住民にとって身近であるべきサービスや事業

 

 

 

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