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なかろうかと、そんなふうな気がしております。

日本でも例えば、よく対比されるのが大阪と東京です。大阪湾は、全部コンクリート、立入りできるのはたったの2%。東京湾は36の海浜公園と埠頭公園があり、ちょうど東京都のかさいの海浜公園、東京デイズニーランドのホテルから川越しに見える中洲にある公園がそれです。もちろんなぎさもあれば、中州も持っている。

大阪と東京と、高度成長期に何でこれだけ違ったんか、そのときの東京都知事は美濃部さんで、ちょうど昭和30年代の後半からの日本の高度成長期です。大阪湾も東京湾もどんどん埋め立てられる最中に、我々の釣り仲間の「江戸前のはぜを守る会」という会がありました。それがどうしても、なぎさが無いとはぜが育たない、だからなぎさを残して欲しいということで、美濃部さんを釣り船に積みまして、東京湾を1日かかりで見せたのです。

それがきっかけとなりまして、美濃部さんが作りましたのが、「東京海上公園条例」。これは、日本の自治体で唯一、東京都だけなんです。海上公園条例には海上公園審議会というのがある。それの構成は8人の住民代表です。もちろん、釣り仲間も入っています。構成の中で、8人という住民代表を加えた日本でもまれな審議会。その東京海上公園条例には、埠頭を造ったり、埠頭公園を造りなさいとうたっている。埠頭公園があるかぎりは、立入禁止ではないのです。大阪は埠頭を造ったら、立入禁止です。同じ日本でも、そのときの知事さんの見識と勇気でそれだけの差が出ております。

そのことが、先ほどいいました、住民運動不毛の地の東京にありながら、フェニックス計画が起こったときに、東京はいち早く運動が起こった。大阪で運動が起こらなかったのは、大阪湾を見られる大阪市民は一人もいなかった。どこに行ったら大阪湾を見られるのか。立入りできる2%は、大和川の河口なんです。だれも見られない大阪湾で、それに昭和35年からの高度成長期に、そういう町づくりをしてしまったために、だれも大阪湾を見てない。見てないところで何が行われようと、無関心だ。これがやはり今の大阪の、世界でも最も粗末なウォーターフロント、大阪湾は正にワースト1だ。国土が狭いから埋め立てがいるんだと、かつてはそういうふうな表現が多かったのです。

 

自然環境は再生できない

今、再干拓しようということが問題になっています、中海の干拓問題、僕も深くかかわっているのですが、干拓を島根県がスタートするときに、島根新聞に大々的に1ページの広報をしております。それは、「無から有を生む昭和の国曳き」という、あそこは、大国主命の話で国曳きの伝説のあるところです。「無から有」というのは、自然は無なんだと、それから土地をつくったら有なんだ。それがその時期の大方の日本人をなにとなく支配していた。しかし、自然というのは無どころかとてつもない価値がある。

例えば、大阪湾の新日鉄堺の話。昭和35年に「鉄は国家なり」ということで、大浜と出島の二つの白砂青松の海水浴場を潰して、新日鉄堺を建設した。5年前高炉を閉じました。たった32年間の新日鉄にとってはささやかな利便、それは、自分のところは港を持って鉄鋼石を輸入して輸出もできる、そのために何千年も続いてきた大浜と出島の白砂青松がとんだ。歴史の中からいいますと、今の大阪湾のこういう粗末なコンクリート岸というのは、昭和35年からわずか30年間でしでかしたでき事なんです。

日本の歴史は、2,600年とか2,800年とかいろいろな説があります。少なくとも2,000年以上続いてきた歴史の中では、30年間はまばたきする瞬間なんです。私たちは先祖からずっと受け継いできた白砂青松の海水浴場があったのは、昭和35年までの話なんです。それを全部無くして。人間のつくった物には寿命があるのです。しかし、あるがままの自然というのはそれが何百年たとうと、何千年たとうと、万葉の時代から詠まれた花鳥風月、日本の自然というのは今でも万葉の心というのはそっくりすんなり受け入れられます。自然と

 

 

 

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